第20章 小さな違和感
「団長…私は………」
「私は君の幸せそうな笑顔を見られればそれで十分だ。だからほら、涙を拭きなさい。」
「うぅ………すみませっ…」
ハンカチを差し出すと、エマは素直に受け取った。
優しい瞳で見つめる。
心の奥に封じ込めた思いを決して悟られぬよう…
エマの幸せを願う、それは本当だ。
ずっと見ていたからよく分かる。
リヴァイといる時のエマはまさに“恋をしている女”の顔。
きっともう、甘い夜だって経験したんだろう。
それこそ壁外調査後の夜、結ばれたあとにでも。
きっととても幸せに違いない。
素直に二人の恋を見守りたい。
その気持ちに偽りはない。
けれど、少しだけ…
素直に応援したい気持ちの陰で、エマの瞳が自分だけを映してくれることはもうないのか思うと、心の奥がチクリと痛む。
「団長……ありがとうございます。私………」
しばらくエマが落ち着くまで見守っていると、彼女の口がゆっくりと開かれ絞り出すように言葉を紡いだ。
「私……今、幸せです。」
「そうか。私も嬉しいよ。」
…“私も嬉しいよ”だなんてよくもさらりと言えたものだ。
こんな時でも得意のポーカーフェイスが大いに発揮できた自分に少々呆れてしまう。
エルヴィンに向けて少し切なげな笑顔で“幸せ”と言ったエマ。
その一言を聞き、エルヴィンは心の奥でチクリと痛んでいた部分がそっと締め付けれるのを感じた。
…本当は、その言葉を俺の腕の中で俺にだけ囁いて欲しかった。
エマの幸せが俺との時間の中にあって欲しかった…
思わずそんな本音が溢れ出しそうになる。
でも、“幸せ”と言った顔が少し切なげだったのは、エマなりに俺を思いやってくれたのかもしれない。
それだけで俺は随分と救われたような気がしたのだ。
もう、彼女はリヴァイのものだ。
さすがに二人の間を邪魔してまで奪おうとまでは思わない。
大切な人の幸せを願う。
それが今の自分にできる唯一のこと…
エルヴィンは少し顔を伏せて、自分の中で大事に育てていた想いを断ち切るように大きく瞬きをした。