第20章 小さな違和感
エルヴィンの手の中にあるティーカップから芳醇な香りが立つ。
「結局淹れてもらってすまないな。しかし本当に辛そうだ…大丈夫なのか?」
「いえ、このくらいやらせてください。ほんと運動不足なのに張り切りすぎるからですよね、ハハハ。」
体のそこらじゅうが痛くて、変な歩き方をしていたらエルヴィンに心配されてしまった。
厩舎の掃除で筋肉痛になったのも間違いじゃないけど、実のところ昨夜のリヴァイとの情事の方がダメージが大きかった。
しかしそんなことをエルヴィンに言えるわけもなく、とりあえず無難な理由を説明したのだった。
「君は何に対しても頑張り屋さんだからな。」
「こんなことしか取り柄ないんですけどね…」
「立派なことだよ。それに私は君のそういう所が好きだ。」
「…は、はい………」
相変わらず涼しい顔してそんなことをさらりと言うから動揺してしまう。
しかしエルヴィンは気付いていないのか気にしていないのか、ソファに座り紅茶を啜りながら手元の書類に目線を落としている。
エルヴィンと二人きりになるのは壁外調査前日の、あの夜以来だった。
あの時はリヴァイとシェリルのキスを目撃してショックを受け、その後振られたシェリルに激しく罵倒されて心がズタボロになっていたところに、エルヴィンが現れ理由も聞かずに自分を助けてくれた。
自分の存在意義が分からなくなって、半ば自暴自棄の状態でエルヴィンと身体を重ねようとしたのだが、結局リヴァイへの思いを引きずったままで中途半端な覚悟しかできずエルヴィンを傷つけてしまったのだ。
それに、自分から求めたとはいえエルヴィンに裸を晒してしまったことも今更ながらにかなり気まずくなってしまっていた。
こうして再び二人きりで面と向かうと、その時のことを思い出してしまってなんとなくいつもの調子が出せない。
しばし無言の時間にそんなことを考えていると、エルヴィンの唐突な質問がその空気を破った。
「リヴァイは、大事にしてくれているか?」
「ゴフッ!!ゴホッゴホッ!」
突拍子もない質問に、飲み込んだ紅茶が気管に入って盛大にむせてしまった。
「すまない、大丈夫か?」
タイミングが悪かったなと謝るエルヴィンだが、なぜか笑いを堪えているような表情だ。