第3章 いきなりピンチ
恋をしたい、と思ったことがないわけではない。
それに、いいなと思う人がいたことくらいはある。
だけど自分がその人の恋人になりたいだとかは思ったことはない。
遠くから見ているだけで十分気持ちは満たされたから、それでいいと思っていた。
いつか澪に偉そうなこと言ってたけど、自分も全然じゃないか。ははは。
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ハンジと食堂で別れた後、エマはさっそく書庫へと向かった。
「…わぁ」
書庫には真ん中に大きなテーブルがあり、その周りに椅子が6脚。そしてテーブルを取り囲むようにして本棚が並んでいる。
よく見るとその後ろにもいくつもの本棚が連なっている。
「すごい数だなぁ、どこから手をつけよう。」
読書を趣味としてきたエマからすれば、そこは夢のような空間だった。
しかも、今自分の興味の全てであるこの世界についての本ばかりなのだから、尚更彼女の気持ちは高まった。
エマは書庫内をグルグル回りながら気になる本を手に取り、大きなテーブルの真ん中にちょこんと座ると、熱心に読みはじめた。
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
「…ふぅ。」
エマは持っていたペンを静かに置くと、大きく伸びをして背もたれに体を預けた。
今、何時だろう?
ここは時計もないし窓もない。
だいぶ集中してたせいで、すっかり時間の感覚が分からなくなっていた。
少し休憩しようと、広げていた本と筆記具を一旦机の端にまとめて置き、書庫の外に出た。
「えっ、もうこんな時間?!」
廊下の窓から射す西日を見て、自分は昼食も食べずに黙々と本を読みふけていたんだと驚いた。
こんなに集中したのはいつぶりだろう。
いや、ご飯も食べずに、なんて初めてだきっと。
エマは気分転換に少し歩くことにした。