第3章 いきなりピンチ
エマの気持ちは複雑だった。
来た当初はもちろん帰ることで頭がいっぱいだったのだが、厳しくそして儚い現実を背負うこの世界と、そこで生きる彼らに知らず知らずのうちにだいぶ入れ込んでしまっているらしい。
こっちに来てまだ三日目だが、自分の気持ちが驚くほど変化していることに気づく。
…正直今は、もう少しここにいたい。
「おーい、エマ?大丈夫?」
「はっ!すみませんぼーっとしてました!」
「急に一点を見つめて固まっちゃったからどうかしたのかと思ったよ。ほんとに大丈夫?」
ハンジが心配そうな顔でエマを覗き込む。
「なんでもないですよ!平気です!」
「ならいいけど。心配事があったら遠慮なく言うんだよ。」
「はい、ありがとうございます。」
エマはニッコリ笑ってお礼を言うと、ハンジもホッと胸をなで下ろした様子だった。
「しっかしエマはさ、元の世界で結構モテたでしょ?」
「んぅっ?!…な、何をいきなり言うんですか!」
今度はハンジから突然突拍子もない質問をされて、飲んでいたスープを吹き出しそうになる。
「だって!すごく可愛らしい顔してるし、背も小さいし華奢で、性格もとても素直で可愛い。まさに守ってあげたくなるような感じだよ!
エマがどっちもいけるって言うなら、私は思わず君を傍に置いておきたいって言っちゃいそうだけど。」
「い、いやいやいや!申し訳ないですけど私はそういう趣向ではないので…」
「アハハ!そんなこと分かってるさ!でも実際、モテてたんだろ?」
「いえ、私は恋愛というものとは無縁ですよ…。」
そう、悲しいくらいに。
周りが眩しいくらいに色恋沙汰で忙しくしている中、自分は恋人の一人は愚か、まともに片思いさえしたことがない。
今のところ青春時代は趣味の読書に全て捧げてきている。
エマはハハ…と力なく笑った。
「そっかー、絶対モテてると思ったんだけどなぁ。
まぁでもまだ若いから、これから可能性は十分にあるね!」
「そうだといいですけど…」