第1章 出会い
——ガタガタッドサッ
「いったぁ……」
「?!」
それは一瞬のことで、頭が追いつかなかった。なぜなら開いたタンスの中から転げ落ちてきたのが、『人間』だったからだ。
「うぅ……」
勢いよく落ちたせいで打ったのか、頭を抱えたまま小さな呻き声を出してうずくまる一人の女。
「誰だてめぇは?!」
俺は咄嗟に身構えた。たとえ女であっても夜中にこんな所から突然出てきて、こちらとしては警戒する要素がありすぎる。
「いつからここにいやがった?! 答えろ!」
「……えっ?! ここ……どこ?」
「は? お前が急に飛び出してきてんだろうが!」
まったく噛み合わない話にイラッとして声を荒らげる。
「ごっごめんなさい! ここはあなたのお家……ですか? 私もよく分かっていなくて」
「お前……自分がどうしてここに居るのかわからねぇ……ってのか?」
「は、はい……」
女は消え入りそうな声で返事をした。
透き通るような白い肌に、艷のある真っ直ぐな黒髪を鎖骨あたりまで伸ばし、俺を見つめる大きな瞳は髪と同じく漆黒で、その目には薄ら涙を溜めている。
どうやら悪い奴ではなさそうだが……何かとんでもなく訳ありのようだ。
「急にそのタンスがガタガタ言い出して、扉を開けたらお前が転げ落ちてきた。俺に分かることはそれだけだ」
「え、私がこのタンスから出てきたって言うんですか?」
「そうだ」
「そんな馬鹿な。だってあの時私、落ちて……」
女は何かブツブツ言っている。そしてそのうち、「そうだ」と何か思い出した様子でポケットを漁り始めた。
「あれ? ……あれ?! 動かない!」
女は手のひらに収まるサイズの黒く薄い箱のようなものを取り出し、それを触ったり振ったりしながら焦っている。見たこともねえ代物だ。全くわけがわからん。
「おい、お前。名を名乗れ」
「あっ、私はエマです。富井エマ。あなたは? ここは一体どこ?!」
「ここは調査兵団の兵舎内、俺の自室で、名は……リヴァイだ」
「ちょうさ、へいだん……?」