第18章 少女が見たもの
「なに………?」
低く地面を這うような唸り声。
その声にエマは歩を止め、辺りを見回した。
…この鳴き声、獣とは違う。
もしかして………
エマはゆっくりと体の向きを変え、そびえ立つ大きな門を見上げた。
呻き声はこの門の中からだ。
……たぶんここに、いる。
壁の外に蔓延るという、あの……
呻き声の正体を想像したエマはゴクリと生唾を飲み込んだ。
ドクンドクンと鼓動が速まっていく。
兵長にはあんなもの見ないほうがいいと言われたけど……
巨人を一度見てみたい、という前々から顔を覗かせていた好奇心に、エマはこの時つい駆り立てられてしまったのだ。
…少し覗くぐらいならいいだろう、というほんの軽い気持ちだったのだ。
高鳴る鼓動を落ち着かせながら、エマはなるべく音を立てずに門に近づいて柵の間から向こうを垣間見る。
「ひっ!!!」
その瞬間、目にした光景に悲鳴が上がった。
視線の先に見えたのは横たわる巨大な体…というより巨大な人の顔。
…間違いない……これが“あの”巨人……
エマの脳がその存在をはっきりと認識した瞬間、焦点の定まらない目で天を仰いでいた巨人の目の玉が、突然ギョロリとこちらへ向けられた。
「ひぃっ!!!」
目が合った瞬間に背筋が凍りついてしまった。
薄ら笑いを浮かべる巨人は何にも形容しがたい不気味さを放ち、それが恐ろしさを増長させていた。
そして大きな顔に対してバランスの悪い小さな体。
それを無理やり動かそうとしているのか、縛りつけている太いロープがギチギチと音を立てている。
大きく開かれた口からはだらしなく涎を垂らし、エマを見て息を荒らげながら必死に首を伸ばそうとするその姿は、格好の獲物を捕食したくて堪らないといった様子だ。
「……あ…………」
上手く声が出せないし、足も勝手にガタガタと震えている。
怖い。
初めて巨人をこの目で見てしまったエマは、先程までの好奇心など一瞬で消え失せ、完全に恐怖に支配されてしまっていた。