第18章 少女が見たもの
どうか、どうか安らかに天に昇ってほしい。
エマにとってシェリルとの繋がりは罵倒されたあの夜しかなかったのだが、今のエマの中にあるのはただそう願う気持ちだけだった。
シェリルだけではない、他の戦死者にも、どうか安らかな眠りを…
エマは気がつくと、無意識に両手を合わせていた。
一一一一一一一一一一一一一一一一一
午後一
エマの姿は兵舎脇にある花壇の中にあった。
午前中で頼まれていた仕事も全て終わって、次にやる事を特に指示されてもいなかったので手持ち無沙汰になってここへ来たのだ。
「うわー、荒れ放題だなぁ。」
花壇は長いこと手入れされていなかったのが見てすぐ分かる程に荒れている。
枯れた雑草が無造作に生え、その上に枯葉が積もった花壇。
建物の脇にひっそりと佇むように作られているためあまり人目に付くこともなかったのだろうか、なんだか寂しがっているようにも見えた。
「よし!今から綺麗にしてあげるね!」
エマは意気込んでジャケットを脱ぎ腕を捲ると、持ってきたゴミ袋に枯葉や抜いた雑草を入れ始めた。
「あ!エマ!」
作業に取り掛かって少し経った頃、急に背後から大きな声で名前を呼ばれる。
「オ、オルオさん…!」
「お前こんな所にいたのか。壁外調査の日、一人で出てったっきり顔を見てなかったから心配してたんだぞ…」
「そうでしたよね……すみません、ご心配をおかけして。」
エマはあの日、オルオに憲兵団本部へ行くと嘘をついてしまったことを今更どう説明しようかと目を泳がせてしまぅた。
しかしあたふたするエマに、オルオは急に笑いだした。
「いやぁ元気そうで良かった!兵長から聞いてるぜ?お前、一人でおつかい頑張ったんだってな。」
「……へ?」
「だからぁ!壁外調査の日憲兵団本部へ行っただろ?あれ、わざわざ一人で行く用事じゃなかったらしいぜ?お前が張り切って勝手に行っちまったから、兵長心配して調査から戻って直ぐに慌ててお前を連れ戻しに行ったんだよ。」
「え……そ、そうだったんですか?!」
オルオの言葉にエマの頭は一瞬疑問符だらけになったが、すぐにリヴァイが上手く話を合わせてくれたことに気が付いた。