第18章 少女が見たもの
それから三日後一
「………できた!」
最後一文字を書き終えた紙を掲げて、満足そうな表情のエマ。
ちまちまと進めていた先日の会議の議事録が完成したのだ。
「よし!さっそく団長に見せに行かなきゃ!……あ、そういえば今日は団長もいないんだった…」
ふと、隣に鎮座している大きな執務机に目をやる。
誰も座っていない机の上は几帳面に整頓されていた。
今日はエルヴィンとリヴァイ、それに亡くなった班員の上官で、今回の壁外調査での戦死者の遺族を訪問する日であった。
エマは具体的にその話を聞いたことはないが、信じて帰りを待つ中、壁の外で無念にも散っていった命の最期も看取ってやることができない遺族の気持ちは、想像するだけでも辛い。
そしてそれを報告しなければならない上官の務めもまた、とても辛いものだ。
エマは目を瞑って胸に手を当てた。
「シェリルさん………」
口から零れたのは、壁外調査の前日にこの部屋でリヴァイに迫っていた女性兵士の名前。
そしてその夜、エマへ八つ当たりのように酷い罵声を浴びせていた兵士だ。
昨日、今回の戦死者についての報告を纏めている時に目にしたシェリル・ミーナという名前。
彼女がリヴァイに言い寄っていた兵士だったと言うのは、昨日本人から聞いて初めて知ったのであった。
彼女は今回、初列索敵班に配備されていた。
そこはエルヴィンの考案した長距離索敵陣形の中でも、最も巨人との遭遇率が高いゆえ死亡する確率も高い場所である。
リヴァイの話だと、彼女は今回の壁外調査を最後に退団を志願していたらしい。兵団を去り故郷の家族の元で暮らしたいと言っていたそうだ。
だから最後に想いを寄せていたリヴァイに気持ちを伝えたかったのか、とエマはそこで合点がいったのだった。
しかしその想いは報われることなく、そして家族の元へ生きて帰ることも叶わず帰らぬ人となった。
彼女には酷く心を傷付けられたが、その事実を聞かされてエマの気持ちは複雑だった。
彼女は…シェリルは最期に何を思ったのだろうか。
叶わぬ恋に破れ、エマにその悲しみや憎しみをぶつけた。
そして戻りたかった家族の元へも帰れず死んでしまった…