第18章 少女が見たもの
それから二時間ほどで急ぎの書類作成は終わり、その後は特に急ぎの仕事もなかったので、エマは午前中の会議の議事録を進めていた。
「…少し休憩するか?」
「あ、いえ、先に議事録を書いてしまいたいので私は大丈夫です。兵長こそどうぞゆっくりしてください。」
時刻は4時を回ったところだ。
キリがついたところでエマにも休むかと声をかけたが、まだまだやる気は続いているようで、丁重に断られた。
リヴァイはキッチンに向かいティーカップを2セット出して茶の用意をし、ひとつをエマの机に置いてやると、エマは慌てて頭を下げる。
「すみません。わざわざ気を使わせてしまって…」
「いや、いい。飲みたい時に飲め。」
言葉はぶっきらぼうだが、丁寧に置かれたティーカップ。カップの中からは芳醇な香りが漂ってくる。
エマはその香りに吸い寄せられるようにカップを手に取ると少し遠慮がちに、「じゃあさっそく頂きます」と言いカップに口をつけた。
香り高く深い味わいを飲めば、自然とホッしてため息が零れる。
「……おいしい。ありがとうございます。」
「そうか、よかった。」
体の中がじんわりと温まっていく心地良さを感じ、同じ体勢で座り続けていた体がゆっくりほぐれていく。
リヴァイもソファに腰掛けリラックスした様子だ。
真面目なエマはこのまままた仕事を再開させようと思っていたが、リヴァイの紅茶のおかげで気が緩んだのかやっぱり少しだけ傍に行きたくなって、カップを持って席を立つとリヴァイの隣に腰を下ろした。
「……へへっ。やっぱりちょっとだけ休憩します。」
自分から移動したのだがいざ隣に座るとちょっと恥ずかしくなった。
照れ笑いを浮かべるエマの頭を、白く長い指が撫でる。
その柔らかくて少し甘ったるい手つきに、エマは居心地が良くなってそっと目を閉じた。
「…………兵長。」
「なんだ?」
目を閉じたまま名前を呼ぶと優しい声が返ってくる。
指先は髪を優しく撫でたまま。
「……巨人って、やっぱり怖いですか?」
エマが発した言葉に髪を梳かしていた手が止まった。
目を開けると若干の苦笑いを浮かべるリヴァイの顔が映った。