第18章 少女が見たもの
椅子の肘置きに肘を乗せ頬杖をつきながら、間抜けな顔をしているエマを見つめ、もう一度聞いた。
「この仕事はどうだ?辛くないか?」
ここへ来て二ヶ月が過ぎ、仕事にも慣れてきた頃だろうか。
エマは読み書きは嫌いじゃなさそうだし、いつもとても真剣に取り組んでくれるのはよく分かっていたのだが、本当のところどうなのだろうか?という疑問が頭に降って湧いていたのだ。
そんなリヴァイにエマは間を置かずに答える。
「辛いと思ったことはないです。
少しでもリヴァイさんやこの兵団の力になればと、とにかくできることを精一杯やりたいんです。
だからこうして役割を与えられること自体がとても有難いと思ってます。」
質問に曇りのない純粋な笑顔で答えるエマに対して、リヴァイは“そうか”とだけ返すと、続けざまに思いを口にした。
「……俺は…元々こういうちまちました事は苦手だ。だからお前が来てからは本当に助かってる。」
「…ありがとうございます!兵長にそう言われるのが私、一番嬉しいです。これからも頑張りますね!」
リヴァイの言葉に嬉しそうに顔を綻ばせるエマ。
そんな姿を頬杖をついたまま眺めていたリヴァイもまた、無意識に目尻が下がり口元が緩んでいた。
エマのこの熱意は一体どこから来るのだろうか。
突然やって来た世界でここまで必死になれるエマのことをやはり不思議な奴だと思うが、こうしてどこまでも物事に純粋で真っ直ぐな彼女は、リヴァイの目にはとても眩しく輝いて見えたのだった。
「手を止めさせてすまねぇな。面倒ごとはさっさと終わらせちまうぞ。」
「はいっ!了解です!」
リヴァイの言葉に益々意気込んだようで、エマはペンを持ち直しまたすぐに手を動かした。
やはり、こうして健気にコツコツと頑張るエマのことがすごく好きだなと思う。
リヴァイは書類に視線を落とすエマの真剣な横顔を見つめながらぼんやりと思い、自身も彼女に触発されて少しやる気が出たようで書類の束を手にとった。