第18章 少女が見たもの
「……これでいいんじゃねぇか?」
気が付いたらリヴァイは適当に目に付いた名前を指差していた。
「あぁっ!私もそれがいいかなと思ってたんです!」
「…そうか。」
つい自分の意思とは無関係に体が動いてしまった。
この屈託のない笑顔を前にしてしまうと、ハンジが繰り広げるこの名付け論争に嫌悪を抱いていた気持ちさえ、不思議とどうでもよくなってしまうのだった。
……まったく、敵わないな。
リヴァイは嬉しそうに声を弾ませるエマを見つめ、僅かに口角を上げた。
「あーっ!リヴァイが笑ってるよ!本当はリヴァイも参加したかったんでしょ?!もー、素直じゃないんだかふぐっ!!」
からかうように言うハンジの顔に突然勢いよく被せられる名前の用紙。
その紙は眉間に深く皺を寄せたリヴァイの手によって、ぐりぐりと顔に押し付けられていたのだった。
「よかったな、二つまで候補が絞れたじゃねぇか。あとはてめぇで決めろ、クソメガネ。」
「んぐっ…………がはっ!
……まったく、相変わらず手厳しいなぁ。」
押し付けられていた手がどかされ、へばりついた紙をペリッと剥がすと、ハンジはどこか嬉しそうににやにやしながらドアへ向かうリヴァイの背中に呟いた。
「一旦執務室へ戻る。エマ、お前も来い。」
「あ、はいっ!」
くるりと振り返ったリヴァイはめんどくさそうな視線をハンジに向けた後、一言そう言ってさっさと部屋から出て行ってしまった。
リヴァイの後を追うようにエマもエルヴィンとハンジに失礼しますとお辞儀をして、パタパタと後をついていくのであった。
「……ねぇエルヴィン、どっちの名前がいいかな?」
紙を握りしめたまま二人が出て行ったドアを見つめ、独り言のように問いかけるハンジ。
「君がいいと思ってる名前にしたらいいんじゃないか、ハンジ。」
急に静かになった部屋に書類を捲る音が響く。
エルヴィンの方を振り返ると、彼はすでに執務机に座って何やら書き物をしていた。
「んー、そうだなぁ……………あ!よし、決めた!」
少し考えた後、何かを思いついたように大きな声を上げて紙に力強く丸印をつけると、ハンジは頭の後ろで手を組みながら満足そうに鼻歌を歌いだすのであった。