第18章 少女が見たもの
「どうした、エルヴィン。」
視線に気がついたリヴァイは目線だけエルヴィンへと向ける。
「……リヴァイ、ありがとう。」
エルヴィンはリヴァイにしか聞こえないくらいの声量でぽつりとそう一言だけ零すと、机に戻って書類を手にとり出した。
「……………」
リヴァイにとってはそれが何に対しての感謝なのかは大方予想がついた。
きっと、絶望の淵に立たされていたエマを救ってくれてありがとうと言いたかったんだろう。
今なら、エマの様子がおかしいから見てきてくれ、と壁外調査中にわざわざ自分に言ってきた理由もなんとなく分かる気がする。
エルヴィンが一昨日の夜のことを知っていたのかは分からないが、きっとエマの秘めた恋心には気付いていたのだろう。
恐らく、こうなるもっと前から。
その上で自分にエマを託したエルヴィンの気持ちを考えると、複雑な感情がリヴァイの心の中を駆け巡るのであった。
「……………」
だがリヴァイとて、壁外調査中のエルヴィンにかけられたあの言葉がなければ、エマを救うことができなかったかもしれない。いや確実にそうだ。
あのまま帰還後も事後処理で忙しくしていて、エマが居なくなったのに少しでも気付くのが遅れたら…と考えるとぞっとする。
リヴァイはドアの方でまだ巨人の名前をあーでもないこーでもないと夢中で迷っている二人を眺めたあと、ソファから立ち上がり、エルヴィンの元へ足を進めた。
「エルヴィン…俺も礼を言う。壁外でのお前からの一言がなければ、あいつの心に傷を負わせたまま多分元の世界へ帰らせちまってた。」
「私は“彼女の様子を見に行ってくれないか”と頼んだだけだ。何もお前に礼を言われるようなことはしていない。」
リヴァイの言葉にエルヴィンは、視線を手元の書類に落としたまま返事をした。
いや、そんなことはない。本当にエルヴィンの働きかけがなければあのままエマと会えなくなっていたのだ。
その思いをちゃんとエルヴィンに伝えたかったリヴァイはもう一度繰り返し感謝を伝えようとしたが、先に声を発したのはエルヴィンだった。