第18章 少女が見たもの
「ぼーっとして振り落とされるなよ。」
「あっ、はいっ!お願いします!」
エマは回した腕にぎゅっと力を込め、リヴァイの背中に体を密着させた。
この距離感を変に意識してしまい恥ずかしかったが、ふと鼻を掠めたリヴァイの匂いには大きな安心感を覚えた。
リヴァイはイーグルの腹をトンと蹴って、街道に馬を進めていった。
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
調査兵団本部一
「えぇ?!リヴァイとエマが行方不明?!!」
団長室に響く取り乱したような大きな声。
「あぁ。留守番中のオルオの話だと、エマは昨日の昼間に憲兵団本部へ行くと言い残して出て行ったそうだ。
リヴァイは恐らく、壁外から帰還後すぐに彼女を探しに行っている。」
「その様子じゃリヴァイがお願いして憲兵団本部まで行かせたわけではないってことか………エマが一人であそこまで行くって、どうして…」
応接ソファに深々と座り頭を抱えるのはハンジだ。
もうすぐ幹部会議だから、その前にリヴァイとエルヴィンに昨日捕獲した巨人の名付けのことを相談しようと思って来てみれば、エマが昨日から行方不明だということを聞かされ酷く動揺してしまっている。
心配そうなハンジを横目に、エルヴィンは団長室のおおきな窓から外を眺めた。
………やはり悪い勘は当たっていたか。
ハンジの前では冷静な素振りだが、エルヴィンも内心焦っていた。
壁外調査前日の夜のエマの様子は明らかにおかしかった。
あの夜、心にぽっかり穴が空いてしまったような彼女に突然抱いて欲しいと言われ、少しでも彼女の何かを埋めることが出来たなら、と思って行為に及んだのだが…
それはもちろん本音なのだが、正直言うと、弱ったエマに付け込んでしまったという部分もあったのだ。
エルヴィンは今更ながら自分のとった行動を後悔していた。
もし、このままエマが居なくなってしまったら、それは自分の責任でもあるのではないか。
心を穴を塞ぐどころか、余計に追い込んでしまったのではないだろうか…
そう思うと、エルヴィンは自分の行動が浅ましい独りよがりなものとしか思えてならなかった。