第16章 旅立ちの日
「あいつは恋人でもなんでもねぇよ。あっちから一方的に迫ってきただけだ。」
「え…で、でも……」
「あいつはいきなり押しかけてきて、今回の壁外調査が終われば兵団を去るつもりだから最後にと強引に迫ってきたんだ。
あの時は俺が油断していたせいで回避出来なかったが、あいつには元々なんの感情も持ってないし今も何とも思わない。
だから安心しろ。」
エマの瞳はまだ不安そうに揺れている。
「余計な心配させてすまなかった。
……まだ信用出来ねぇか?」
「いえ…そんなことないです。ただ……」
「ただ?」
「あの人、私に言ったんです。“リヴァイ兵長と恋人なんだ”って。」
「…あいつに会ったのか?」
「……はい。執務室を去った少し後に、外で。」
エマはそこまで言うとまた目を潤ませ始めた。
「あの人は言ってました。自分はリヴァイ兵長と付き合ってるから邪魔しないでって。
それに、私はリヴァイさんの隣を歩く資格はないって…人類最強と兵士でもない凡人じゃ釣り合わないからって。」
零れそうな涙を必死に堪えた。
そんなエマの耳に、リヴァイの低く落ち着いた声が聞こえてくる。
「…お前は、そんな嘘つき女の言うことを信じて、俺の言うことは信用出来ねぇってのか?」
「え……?」
ハッとして前を向けば、真剣な顔をしたリヴァイが映った。
「エマ、俺が好きなのはお前だ。
誰がなんと言おうと俺はお前を一番大切にしたい。
……俺にはお前が必要なんだ。」
飾らない言葉が、すっと心の中へ入り込んでいく。
「……これでも信用出来ねぇか?」
「いえっ……」
優しい声色で、泣いている子供を宥めるかのように問いかけるリヴァイ。
エマは涙の滴る顔を必死に左右に振った。
愛する人の言葉を、一瞬でも疑った自分が馬鹿だった。
「ごめんなさい…リヴァイさんのこと信用してないわけじゃなかったんです。でもあの人に色々言われて、自信を無くしかけていたのも事実で……」
「それで、思い詰めて一人でここを去ろうとしたのか?」
「…はい。」
エマは苦しそうな表情で答えた。