第16章 旅立ちの日
白く細長い指に骨ばった手。
その手が冷たい両頬を包み込み、ゆっくり上に向ける。
顔を上げれば必然的にリヴァイと視線がぶつかり、その目は片時も逸らせなくなった。
そうして互いに見つめあったまま、リヴァイは静かに話し出す。
エマは溢れそうな涙を必死に堪えながらも耳を傾けた。
「大切な奴……そいつはとにかく純粋で真面目で、努力家だ。
それに気配りもよくできて優しい。」
「…………」
「だがちょっと変わったところもある。
いきなり転がり込んできたこんなクソみたいな世界を気に入って興味津々だし、ここで誰かの役に立ちたいと毎日必死だしな。」
「………え?」
小さな心臓が大きく跳ねた。
想像していたのとは違う言葉に、上ずった声も漏れる。
「最初はすぐに元の世界に返してやるべきだと思ってた。
だが一緒に過ごし始めて、あっという間にそんな思いは消えた。
そして今じゃ、元の世界に帰ろうとするのを必死になって止めちまう始末だ。」
「……リヴァイ、さん…」
「俺が帰って欲しくないと言えば、お前はずっとここにいてくれるのか?エマ。」
物憂げなリヴァイの顔が、瞬く間に滲んでいく。
「…帰れるわけ、ないじゃないですかっ……」
必死に言葉を紡ぐエマの目からは大粒の涙が零れていた。
「…私も………リヴァイさんのことが…大好きなんですから……」
泣きじゃくりながら発せられた思いに、リヴァイは優しく目を細め、頬を包み込んだまま伝う涙を親指で拭った。
「……お前を泣かせてばかりだな。」
「いいんですっ…これは嬉し涙なんで………」
昨日から散々泣いているというのに、枯れることのない透明な雫。
その雫をまた拭いとると、泣きじゃくる顔を引き寄せ、震える唇にそっと唇を重ねた。