第16章 旅立ちの日
待て、何故そんな顔をする。
何故そんなに悲しそうに笑うんだ…
まるで何かを悟っているような、諦めにも似たなんとも言えない表情に、リヴァイは言い知れぬ焦燥感を感じる。
……違う。
伝えたいのは俺の方だ。
「エマ、俺もお前に言いたいことがある。」
「…え……?」
リヴァイに不安そうな目を向けるエマ。
そんなエマの瞳を真っ直ぐ見据え、リヴァイはゆっくりと一言一言噛みしめるように話し始めた。
「……いいか。一度しか言わないからよく聞け。」
「………はい。」
「お前のことが、好きだ。」
………………
……これは…聞き間違いではないだろうか。
エマは大きな瞳を見開いたまま、ぼんやりとそんなことを思った。
「…今……なんて………?」
聞き返した声は震えてしまっている。
リヴァイは目を細めて、小さな手を強く握った。
「…一度しか言わないと言っただろう。」
「え……だ、だって、リヴァイさんには……大事な人がいるはずじゃ……」
リヴァイの恋人だと宣言していた女兵の顔を思い浮かべながら、おそるおそる問いかける。
「そうだ。俺には大切に想っているやつがいる。」
…あぁ。やっぱりそうなんだ。
こちらを真っ直ぐ見つめ迷いなく答えるリヴァイに、エマは一瞬でも胸を弾ませたことを後悔した。
さっきは確かに自分のことを好きだと言ってくれたのに、やっぱりリヴァイさんには恋人がいるんだ……
ならどうして、そうやってまた期待させるようなことを言うんだ……
エマは歪んでしまいそうな顔をリヴァイに見られないように、下を向く。
握られた手が小さく震え出すと、リヴァイの手が離れてしまった。
エマはぎゅっと目を瞑り、唇を噛んで涙を堪えた。
すると次の瞬間、俯いた頬に暖かな体温が触れた。