第16章 旅立ちの日
どのくらいの時間が経っただろうか。
お互いになかなか離れようとしなかった身体を、どちらからともなくゆっくりと離した。
相手の体温を手放すと、体が急にひんやりとする。
またすぐに温もりが欲しくなった。
そんな思いからか、二人は下へ下ろしたお互いの指先を絡め合ったまま向かい合った。
「リヴァイさん……」
少しの間沈黙が流れ、先にそれを破ったのはエマだった。
「なんだ?」
「本当にごめんなさい……自分勝手な真似をして。」
「…それはもう気にするな。」
「……………」
泣き腫らした目をリヴァイに向けて、エマは再び謝罪した。
リヴァイはまた今にも泣きだしそうな頭を無言で優しく撫でた。
エマがなんの理由もなく、黙って元の世界に帰ろうなんて思うはずがないと思っていた。
ただ、エルヴィンから聞いた“嫌な予感”の正体も気になるし、何が彼女をここまで行動させたのかは知りたい。
しかしそれを聞き出すのは少し怖くもあった。
自分でどうにかできる問題ならまだしも、何かのきっかけでエマが故郷のことを想い、帰る決断を下していたとしたら。
そうだとしたら、自分にはどうしてやることも出来ないかもしれない。
あれこれ考えてなかなか聞けずにいると、再びエマの方が口を開いた。
「……私、一時は本気でこの世界を去ろうと考えていたんです。
でも、こうしてまたリヴァイさんに会えて心の底から嬉しくて、安心して。このまま旅立っていたらきっとすごく後悔してたと思います…
だから……ありがとうございます。」
見上げた柔らかな微笑みが、リヴァイには少し切なく映った。
今のエマに、どういう顔をしてやればいいかよく分からない。
返答に迷うリヴァイにエマは続けた。
「………リヴァイさん…こんなこと言われたら困っちゃうかもしれないけど、私、どうしてもリヴァイさんに伝えたいことがあって。」
「伝えたいこと…?」
「……はい。ごめんなさい、迷惑なのは承知の上ですけど、聞いてくれますか…?」
エマが切なげに眉を下げて笑った。