第16章 旅立ちの日
夜を迎えたばかりの空にに二つの影が舞う。
リヴァイは一際背の高い教会の壁にアンカーを突き刺すと、屋根へ降り立った。
そしてゆっくり下ろしたエマの身体をすぐさま自分の胸へと抱き寄せた。
「勝手にいなくなるなと言っただろ……」
「…っ…ごめんなさい………」
発したのは強気な言葉だったが、その声は自分でも驚くほど掠れ、弱々しいものだった。
しかし愛しい声を聞けば、抱きしめる腕には自然と力が入ってしまう。
見つけるのがあと一秒でも遅かったら、エマはもうここにはいなかったかもしれない。
そう思うと、今こうして彼女の声を聞き、抱きしめられたことに心の底から安堵する。
「……もう会えないかと思ったじゃねぇか。」
思ったままに本音を漏らせば、たちどころにエマへの想いも溢れ出す。
こうして、溢れた想いを全てぶつけるかのように、リヴァイはその小さな身体をきつく、きつく抱き続けた。
「リヴァイさん……っ…ごめんなさい
待ってるって…っ約束……したのに…
自分、勝手なこと…してっ………」
肩越しに聞こえた涙交じりの謝罪に、リヴァイはその震える背中を優しく摩った。
「…もうそんなことはいい。お前は消えずにここにいて、今こうして抱きしめてやれてる。それで十分だ。」
「…っ………リヴァイさ……っ」
優しい声と温かな体温に、涙はとめどなく溢れた。
もう顔を見ることも声を聞くことも、そして肌に触れることも叶わないと思っていた。
それが今、確かに愛しい人の温度を感じている。
肌に伝わるリヴァイの温もりが、身も心もじんわりとあたためていき、エマに深い安心感を与えていた。
覚悟なんて全然決まってなかったのかもしれない。
だって、本当はずっとこうして欲しかったから……
「…私もずっと………リヴァイさんに抱きしめて欲しかったです……」
涙と鼻水ぐちゃぐちゃになった顔を、リヴァイの肩に埋める。
この涙を止める術も、震える身体を止める術も分からないが、もはやそんなことは気にならなかった。
エマはリヴァイの背中に回した腕に力を込めた。