第16章 旅立ちの日
「オルオ、エマがここを出たのはいつだ?」
「え?えーと……確か今から2時間くらい前ですかね…」
オルオが思い出しながら返答すると、リヴァイはそれを横目にすっと立ち上がり、「分かった」と一言だけ告げるなり部屋を飛び出した。
「……どうなってんだ…?」
状況が上手く飲み込めないオルオは、頭に疑問符を浮かべながら去りゆくリヴァイの背中を見つめるばかりであった。
リヴァイは紅く燃えさかる夕日を体に浴びながら、全速力で馬を走らせた。
太陽はさらに西へ傾き、刻一刻と一日の終わりを告げようとしている。
「…チッ!」
焦る気持ちを抑えることが出来ず、さっきから何度も舌打ちをしてしまう。
エルヴィンにエマのことを聞いた時から抱いていた予感は、オルオの言葉でさらに大きく確信的なものとなり、いてもたってもいられなくなって兵舎を飛び出したのだ。
手網を持つ手が酷く汗ばむ。
激しい胸騒ぎに呼吸まで苦しくなりそうだ。
リヴァイにとってもっとも望まない結末ばかりが脳内をチラついてしまう。
早く……早くエマを見つけ出さなければ。
リヴァイは最速で憲兵団の本部へとたどり着くと、辺りを見回した。
しかし周辺にエマの姿はない。
「……クソッ」
その時がすぐそこまで差し迫っているような予感がして、迫り来る焦燥感に苛立ちを隠せない。
リヴァイは壁外調査から付けっぱなしの立体機動装置のトリガーに指をかけた。
走り回るより上から探した方が早い。
リヴァイはアンカーを建物目掛けて射出し、勢いよくガスを噴射すると宙へ舞った。
エマ、どこにいる?
俺の帰りを待っていてくれるんじゃなかったのか?
なぜ何も言わずにいなくなる?
こんなにもお前に会いたいと思っているのに、お前は違ったのか?
いなくなるならせめて、俺の気持ちぐらいちゃんと聞いてからにしろよ…
まだ何も話してない。
愛しい顔も声も聞けないまま、身体に触れることも出来ないまま離れるなんて耐えられない。
約束通りちゃんと帰ってきたんだ。
だからお前が勝手にここから出て行くなんて許せねぇ。
………頼む、間に合ってくれ。