第16章 旅立ちの日
エマの目のからは、留めきれなくなった涙が溢れた。
次から次へと湧き出るそれを抑えることが出来ず、目の前の景色を酷く滲ませる。
自分で決断してここまで来たのだ、今更引き返すつもりはない。
なのに、なのに………
何度も邪魔しようとするこの気持ち。
抗えば抗おうとするほどその思いは強く色濃く、脳内にこびりついて離れようとしないのである。
本当はもっと一緒にいたい。
まだまだ聞きたいことも話したいことも沢山ある。
貴方の一番になれなくてもいいから、もっとたくさんの時間を過ごしたい。
本当は、このまま離れたくなんかない……
リヴァイさん…リヴァイさん………
リヴァイさん。
「…………会いたい….」
消え入りそうな声が、少し冬の匂いを残した風にふわりと乗って飛んでいく。
本音を声に出すと、さらに強く胸が締め付けられた。
このまま会えなくても、生きて、元気でいてくれてさえすればそれでいいとあの場所を去ったはずだったのに。
今になって、どうしようもない後悔の念が心の中を埋め尽くしている。
頬を涙で濡らし、わなわなと肩を震わすエマ。
行き場を失った感情は全て生暖かい雫となって、冷たい石畳の上にたくさんの染みを広げていった。
「………………」
エマは思いを押し殺すように目を瞑りしばらくの間黙り込んだ後、震える拳を力いっぱい握りしめる。
そしてこれ以上の涙は流さまいと空を見上げた。
見上げた空は東から深い群青色、青、水色…そして燃えるような紅い夕陽へと綺麗なグラデーションをつくっている。
まるで大空に昼と夕方と夜が同時に存在しているかのような幻想的な色。
エマは瞳に残った涙を腕でゴシゴシと拭くと、、井戸に両手をかけた。