第16章 旅立ちの日
「……分かったよ。」
最もな意見を言うエルヴィンに何も言い返せず、ハンジはしぶしぶ了承した。
「総員!拠点の設営と物資の補給が終わり次第、トロスト区へと帰還する!巨人が寄ってこないうちに迅速に済ませろ!」
「「「はっ!!」」」
エルヴィンの号令を受け、兵士たちはそれぞれの持ち場で作業を進めた。
リヴァイは肩を落とすハンジを尻目に、自分の班の様子を見に行こうと踵を返し始めたが、その足をエルヴィンに呼び止められる。
「リヴァイ、少しいいか。」
「なんだ。」
「兵団本部へ戻ったら、エマの様子を見に行ってくれないか。」
「?なぜ今そんなことを言う。」
リヴァイは仮にも壁外で、エルヴィンがわざわざエマのことを口に出すとは一体どうしたものかと怪訝な顔をした。
「何も無ければいいんだ。ただ、彼女に違和感を感じていてな。少し嫌な予感がする。」
「ならお前が様子を見に行くべきじゃねぇのか?」
「いや……お前に行ってほしいんだよリヴァイ。」
「どういう意味だ?」
「言葉のまま受け取ってくれ。俺からの頼みだ。」
「……了解だ、エルヴィン。」
「ありがとう。」
リヴァイはエルヴィンからエマのことを頼まれる理由がよく分からないままだったが、彼の真剣な眼差しを見て素直に返事をした。
嫌な予感とはなんだ…?
エマに何かあったのか……?
普段からこういう時のエルヴィンの予感はあまり外れることがないから、余計に胸中はざわついてしまう。
「リヴァイ兵長!」
黙って考えを巡らせていると、自分を呼ぶ声にその思考は断ち切られた。
「…あぁ、今行く。」
今は壁外調査中だ。
とりあえず目の前のやるべき事をやらなければならない。
リヴァイはエマのことは一旦頭の隅に留め、自分を呼んだ班員の元へ向かった。