第16章 旅立ちの日
「おい何しょんぼりしてんだ。お前は兵長に必要とされてここにいるんだろ?もっと自信持てよ。」
「そう…ですよね。自信持たなきゃですよね!」
オルオの励ましに明るい笑顔を向けると嬉しそうに頷いてくれていた。
正直、昨日のショックはまだかなり引きずっているけれど、オルオさんの言葉にちょっと救われたような気もする…
「オルオさん、ありがとうございます。少し落ち込んでたんですけど元気出ました!」
「おお、それは良かった。たまにはお前とこうして話すのも悪くねぇな。調査が終わったら皆で飲むか!」
「いいですね、ぜひ。あ、でもその前にちゃんと治してからですよ?」
「怪我してても酒は飲める!」
「…兵長に知れたら叱られますよ?」
「そ、それはまずいな……」
「フフッ。…あ、じゃあ私そろそろ行かないと。」
ふと壁の時計を見て、オルオとのつかの間のひとときを切り上げようとコップを持って立ち上がった。
エマの顔を不思議そうに見上げるオルオ。
「行くって、こんな日にどこにだ?」
「あぁ、ええと………兵長からひとつだけ頼まれ事があって。憲兵団本部まで。」
「憲兵団の本部?そんな所まで何の用だってんだ?」
エマの言葉にオルオは驚いてさらに問いただした。
まずい、口が滑った…さらりと別れるつもりだったのに。
「えと、あまり人に言うなと言われてますので…」
「…そうなのか……まぁ気を付けて行ってこいよ。」
「はい!ありがとうございます。オルオさんもお大事にしてくださいね。」
「あぁ、ありがとよ。」
エマはなんとかオルオを納得させて食堂を後にする。
そして自室まで急いで戻りタンスの中から紙袋を取り出すと、それを両手に抱えて門まで走った。
「すみません、お待たせしました。」
息を切らしながら、門の前に止まっていた一台の馬車に乗り込む。
御者に行き先を告げると、馬車はすぐに動き出した。
乱れた呼吸を整えながら、馬車の中からゆっくりと遠ざかっていく調査兵団の兵舎を見つめていた。