第16章 旅立ちの日
「ここの居心地はどうだ?お前の働きっぷりはリヴァイ兵長も太鼓判を押すほどのものだと聞いているが。」
「そんなことないですよ。私はただ兵長に言われたことをこなしているだけです。」
「あのリヴァイ兵長を補佐するのは並な事じゃないと思うがな。やっぱお前はそういう能力に長けてんだよ。」
「そうですかね…ありがとうございます。」
昨日の女兵士に“約立たず”と言われたことに深く傷付いていたエマは、オルオの褒め言葉もなかなか素直に受け取ることが出来なかった。
けれどなるべくその気持ちを悟られないように明るく礼を言った。
そんなエマにオルオは続ける。
「それだけじゃねぇよ。リヴァイ兵長はお前が来てから変わった。」
「…変わった?」
エマはどういう意味だろうと怪訝そうな顔をする。
「あぁ、もちろん良い意味でな。雰囲気が柔らかくなっていうのか…なんつうか楽しそうに見える。」
「楽しそう…ですか?」
普段のリヴァイを思い出してみた。
仕事中の殺伐としたリヴァイから楽しそうだなんて感じられただろうか?
中庭で二人でいる時は仕事中よりかは柔らかな雰囲気だったが、それはプライベートの時間というのもあったからだろう。
エマは疑問に思いながら考えていた。
「俺は兵長のことを誰よりもよく見てきてるからな。それくらいの変化にはすぐに気付く。間違いねぇよ。」
首元のクラバットを整えながら自慢げに言うオルオ。
エマから見ても、オルオがリヴァイを崇拝するに近いくらい尊敬していることはよく分かっていた。
クラバットや話し方もリヴァイに似せているように感じるし、何よりリヴァイへの深い敬愛がその言動からいつも溢れ出ている。
自分が来てからリヴァイが変わったなんてにわかに信じがたい話でも、オルオから語られれば少しだけそうなのかもと信じてしまう。
もしオルオの言うことが本当だ考えると、エマはやはり嬉しい気持ちになった。
「…それなら、私も少しは兵長に貢献できたんですかね。」
エマは空のコップに目線をやりながら独り言のように呟いた。