第2章 始動
「明日からそれを着て過ごせ。それと俺のことは、名前の後に兵長を付けて呼ぶようにしろ。」
「リヴァイ…兵長?ですか?」
「周りもそう呼んでいる奴らがほとんどだ。俺は呼び方なんてどうでもいいが…これはエルヴィンからの指示だ。」
そうか。
私はあくまで壁内の人間である、ということか。
下手に不審がられることがないように。
エマは改めてエルヴィンの意志を確認すると、貰った兵服に目をやった。
この翼…これを着たらなんだか私も…
エマは兵服を見つめながら頬を緩めた。
例え見かけだけでも兵士たちと同じようになれるのは、ここに居てもいいんだと言われている気がして嬉しかったのだ。
「分かりました、リヴァイ兵長!」
「…お前からそう呼ばれると気持ち悪いな。」
「き!気持ち悪いって酷い!リヴァイさ…兵長が呼べって言っておいて!」
「ハッ、冗談だ。」
リヴァイは短く笑うと、座っているエマの隣に立ち、頭にポンっと手を置いて喋り出した。
エマはドキッとして上を見上げるが、リヴァイは目線を合わせず前を向いたままだ。
「明日から俺たちはまた仕事に訓練の日々だ。お前はお前のするべきことをやれ。」
「は、はい!」
「何かあれば俺かハンジ、エルヴィンにだ。他の奴ともしゃべっていいが、くれぐれも面倒なことにはなるなよ。」
「あの、それなんですけど…」
エマは少し不安そうな目を向けると、自分を見下ろしたリヴァイと目が合った。
「もし、何でここにいるのか理由を聞かれた時は、なんて答えるのがいいのかなって…」
早かれ遅かれ誰かに聞かれることになるであろう質問の答えを、用意しておかなければならない。
そう思ってリヴァイに聞くが、返ってきたのはよく分からない質問返しだった。
「……お前、読み書きは得意か?」
「まぁ好きですけど。」
元々読書は好きだし、文章を書くのも苦手ではないと思う。
それにこの世界の文字は何故かカタカナを逆さに書いたものであり、読解不可能ではなかった。
「なら、俺の秘書と言っておけ。書類仕事がクソみてぇに増えたせいで臨時で雇われたと言えばいい。」