第2章 始動
「それで通りますかね?」
「前に一度、エルヴィンにもついたことがあるから大丈夫だろ。すぐに辞めちまったがな。
それに読み書きが得意なら、もう少し慣れたら実際手伝って貰おうと考えてたし、これなら嘘にはならねぇだろ。」
「お手伝い…やらせてもらえるんですか?!」
エマの目が輝いた。
「あぁそうだが……それがそんなに嬉しいのか?」
「はいっ!私も早くここに慣れて、少しでもリヴァイ兵長達の力になりたいと思ってたところなので嬉しいです!」
満面の笑みで顔の横でやる気の拳を作っているエマ。
自分の秘書なんてちょっと無理やりだったか、と思ったが、嬉しそうに目を輝かせているエマを見て、リヴァイはひとまず安心するのだった。
「なら、とりあえず誰かに聞かれたらそう言っておくようにしろ。」
「はい!……あの、リヴァイ…兵長。」
「なんだ?」
威勢のいい返事が聞こえたかと思えば、ぎこちなく名前を呼ばれて顔を見る。
すると、エマはクシャッと綻ばせて
「ありがとうございます。」
と一言礼を言った。
その顔に、リヴァイは自身の胸がトクンと音を立てたのに気がついた。
…不思議な奴だ。
エマが去ったあと自室で紅茶を啜りながら、リヴァイは胸の奥がじんわりと暖かくなるのを感じていた。
ここにいると毎日が目まぐるしく過ぎていく。
壁外調査が行われれば毎回誰かが死ぬ。
そして4年前、壁が破壊されたことによって、壁内の安全も保証されなくなった。
自分が今信じている仲間だって、いつ命を落とすか分からない。
いつも死が身近にあるこの異常な毎日一。
そこへ突然現れた一人の女。
まったく別の世界からきた人間だからなのか、はたまた彼女自身が持つ力なのかは分からない。
しかし彼女の存在は、厳しい現実を生きるリヴァイの乾いた心に、僅かずつだが、でも確かに潤いを与え始めていた。