第16章 旅立ちの日
「一人で陰気くせぇなぁ。」
右腕を吊るしながら食堂の隅に置いてある水差しへと近づいていく。
「もう歩き回って大丈夫なんですか?」
エマはさっとオルオの先に回り、水差しからコップに水を注いで近くのテーブルに置いた。
「へへっ、悪ぃな。」
「いえ…手首の調子はどうですか?」
「さずがにまだ四日目だから痛てぇな。だが横になる気にもなれなくてよ。だから外へ出てみたり色々してるってわけだ。」
「やっぱり、落ち着かないですよね…」
兵士でもない自分でさえこんなにソワソワしてしまうんだ、直前まで戦地に行くはずだったオルオは、きっとその何倍もソワソワしてしまうだろうし、すごく…やるせない思いでいるだろう。
「そうだな…一人でいると改めてこんな状態の自分が惨めで情けなく思えてきちまう。」
オルオはハッと乾いた笑い声を漏らし、水の入ったコップへ視線を下げた。
「…そう、ですよね…」
オルオの気持ちに寄り添うと、なぜだかエマまで悔しくなってしまい、下唇を噛んで下を向いた。
しかし向かいから聞こえてきたはっきりした声に、エマはすぐに顔を上げた。
「でもな、俺達がクヨクヨしてちゃダメなんだよ。
今こうしてる間も仲間は命を掛けて戦ってる。待つ側の俺達が信じてやらなきゃ、誰があいつらを支えてやるんだって話だ。」
「オルオさん…」
その言葉は自分自身に言い聞かせたのか、エマへの助言なのかあるいはどちらもなのか。オルオは信念を持った眼差しでエマに視線を合わす。
「みんなこの日のために毎日頑張ってんだ。リヴァイ兵長だっている。だからきっと上手くいく。俺達はそう強く信じて待とうぜ。」
「……はい。」
オルオの強い精神力に背中を押され、エマも同じように自身に言い聞かせた。
「そういやお前とゆっくり話するのは初めてだったな。」
「そうですね、いつも訓練時間中か食堂で少し話をするくらいでしたもんね。」
オルオはリヴァイ班の一人だ。
オルオをはじめリヴァイ班の班員とは仕事中に話すことはよくあったが、こうして腰を据えてゆっくり話すのは初めてのことだった。