第15章 喪失 ※
自室までの長い廊下を無言で歩く。
エルヴィンとの間に流れる沈黙は重いものではなかったが、自室までの長い距離を強調させた。
長い長い廊下を経て自室に着くとエマは頭を下げた。
「団長、わざわざ送ってくださって本当にありがとうございました。」
「こちらこそありがとう。調査前に君と過ごせて良かった。風邪を引かないように暖かくして寝るんだよ。」
エルヴィンはエマの頭をポンポンと撫でる。
いつも通りに微笑むエルヴィンを見て、突然不安が押し寄せた。
「団長も………ご武運を。
どうかご無事で帰ってきてください…」
こうしてエルヴィンの笑顔を見ながら別れることは幾度となくあったが、数時間後には壁の外へ行ってしまうのを意識すると急に怖くなってしまったのだ。
もちろん無事に帰って来て欲しいと思っていたのだが、今は改めてエルヴィンの無事を願わずにはいられなかった。
「ありがとう。エマが待っていてくれていると思うと頑張れそうだ。必ず生きて帰るよ。」
エルヴィンはそんな彼女の不安を拭うかのように優しく微笑み、力強い声で答えた。
一一一一一一一一一一一一一一一一一
一ドサッ
自室へ入り鍵をかけると、勢いよくベッドに倒れ込んだ。
「…………」
瞬く間に強い疲労感が襲い、ベッドに体を沈めながらエマは瞼を閉じる。
この数時間で色んなことがありすぎた。
エルヴィンの切ない笑顔、
リヴァイの執務室で見た光景、
リヴァイの彼女を名乗る女からの罵声の数々。
瞼の裏に断片的な映像が次々と流れていく。
正直、頭の中はまだ混乱している。
混乱しているのだが、その中でエマはひとつだけ決心をしたことがあった。
辛いから逃げるのではない。
むしろこのタイミングが最適だと思ったのだ。
閉じた目にぎゅっと力を込め、その決意を固める。
とりあえず明日は笑顔で皆を送り出そう。
自分のことはそれからでいい。
皆が、無事に帰ってきてくれますように。
エマは徐々に消えゆく意識の中でそう祈りながら、眠りの世界へといざなわれていった。