第15章 喪失 ※
「……………」
これで良かった。
エマは予想通り、リヴァイのことを想っていた。
彼女は諦めるようなことを言っていたが、自分が今まで見てきた限り、リヴァイもエマに想いを寄せているに違いないと思っている。
二人の間に何があったか何度も聞こうとしたが、それを聞いて本当に純粋にエマを励ますことが出来るのか自信がなくて、結局聞くことは出来なかった。
エマの前では気丈に振舞ったが、実際ああして拒まれてしまったのは想像以上に堪えた。
自分はこんなにも弱くて女々しかっただろうかと思うくらいにだ。
しかしあと数時間後には壁外調査。
自分はあくまで調査兵団の団長という立場。
戦場に私情を持ち込むなんてもっての外、あと数時間後には大勢の兵士を引き連れて指揮をとらなければならないのだ。
巨人の正体を掴み、この世界の謎を解くことに人生を賭けている自分にとって、この兵団は自分の命そのものである。
だから一時の私的感情で兵士の命を、自分の野望を捨てることは絶対にあってはならない。
己の使命を全うするためには、余計な感情は心の奥底に沈めてしまうのが一番いい。
私は調査兵団団長のエルヴィン・スミス。
……大丈夫だ。明日は必ず結果を残してみせる。
エルヴィンは自分を奮い立たせる。
だがひとつ……
ひとつだけ気になることがあった。
それは今日のエマに対して感じた違和感だ。
単純にリヴァイのことを諦めているだけではない、何か別の諦めのような感情をエマの雰囲気から感じ取った。
それがなんなのか、そこまで考える余裕は先の自分にはなかったのだが、こうして自室で一人になると急に気になりだしてしまった。
!!
まさかとは思うが…
今までこういう予感はあまり外したことがないから余計に心配になる。
「……………」
とりあえず、このことは帰ってからもう一度考えるとしよう。
明日のためにもう今日は寝てしまわなければ。
エルヴィンは胸の奥で微かにざわつく何かに無理矢理蓋をし、瞼を閉じた。