第15章 喪失 ※
「何故そう言い切れるんだ?本人がそう言ったのか?」
「……っ………いえ……」
エマは努めて明るく話したが、エルヴィンの痛い突っ込みに口ごもってしまう。
「ならなぜ決めつけてしまうんだ?」
「それは……私が身を引くのが一番いいと思ったからです…」
「リヴァイにとっても君にとっても…か?」
「……はい。」
「そうか…」
真剣な顔つきで話を聞いていたエルヴィンは、彼女の意志を確認すると、ふわりとその表情を緩ませて続けた。
「それなら、こんな状況でも私にもまだチャンスがあると思っても?」
「そっそれは…」
「ハハハ、冗談だ。また君の弱みにつけ込むような卑怯な真似はもうしない。
色々と気持ちの整理がついて、もしそれでもまだ望みがあるようならもう一度君を全力で奪いに行くとするよ。」
エルヴィンは大きな両手でエマの頬を包み込む。
その言葉と行動に、エマの頬は簡単に染まり何も言えなくなる。
そんな彼女の姿を目を細めて見つめ、エルヴィンは再び口を開いた。
「君には幸せになって欲しい。誰と一緒になったとしても、エマが幸せでいてくれればそれでいい。それが私にとっての幸せでもあるのだから。」
“私と結ばれることでそうなれば尚嬉しいんだがね”
と付け足すエルヴィンの顔はとても優しかった。
「………団長っ…なんで……」
またポロポロと涙が流れる。
涙が頬に添えられたエルヴィンの手を伝い、濡らしていく。
「……なんで、そんなに優しくしてくれるん…ですかっ…」
顔を酷く歪ませて泣くエマを、エルヴィンは愛おしそうな目で見つめてその想いを口にした。
「君を愛しているからだ。」
フッと微笑むと、目を見開くエマの小さな体をそっと抱き寄せ、耳に唇を寄せた。
「……最後に、少しの間だけこうしていてもいいか」
掠れた弱々しい声に、切なさが込み上げ胸が締め付けられる。
いっその事、今ここでエルヴィンを好きになれたら全てがうまく行くのに。
頭で考えることとは裏腹に、気持ちの方はどうにも同じ方向を向いてくれない。
エルヴィンの胸の中で小さく頷くことしかできなかったのが悔しかった。