第15章 喪失 ※
エルヴィンは表情を変えることなく、黙ったままだ。
「……軽蔑…しますよね………こんな、自分勝手なこと…」
エマは後悔した。
エルヴィンの気持ちを裏切るような結果になるなら、最初から彼に甘えてなんかいけなかったのだ。
あの時は憔悴しきっていたからとかそんな言い訳もしたくない。
全ては自分の弱さのせいだ。
エマはエルヴィンの気持ちを踏みにじった己の不甲斐なさを酷く軽蔑した。
また涙が零れそうになるが、自分に泣く資格などない。
涙を堪え強く下唇を噛んだ。
キリキリと前歯に力が入り、唇が切れた。
口内に苦い味が広がって、その苦みを飲み込んだ。
「……団長、ごめんなさ」
「謝らないでくれ。」
震える声で再び謝罪しようとしたのを、エルヴィンの声が遮る。
「私はそれでも良かったんだ。エマの傷ついた心が少しでも癒えるのなら、何でもしてやりたいと思った。
だから甘えてくれて良かったんだ。私のことは大いに利用してくれていいんだよ。」
優しく、それでいて芯の通った力強さも感じるエルヴィンの声。
安定感のある、いつもの声だ。
しかしエマはエルヴィンの顔を見て驚いた。
いつも自分に向けられる微笑みには変わりないのだが、その表情に決定的な違いがあることに気付いてしまったのである。
「……何でそんなことを………」
「君が大切だからだ。」
「なら……なんで、そんなに悲しい顔で笑うんですか…」
「…………ハハ、君には敵わないな。」
エルヴィンはエマの問いかけに一瞬目を丸くさせた後、痛いところを突かれたと乾いた笑い声を漏らして呟く。
「…今話したことは全て本心だ。例え慰めだとしても君が私を求めてくれたのは嬉しかったんだよ。
……でも正直言うと、君に振り向いて欲しいとさっきは本気で思った。可能性が低いと分かっていてもね。」
柔らかな笑みをエマに向ける。
「リヴァイのことが諦められないんだろう?」
「え……」
いつものような優しい笑顔で発せられた言葉に、エマの瞳を大きく揺れ、喉がものすごい速さで乾いていくのを感じた。