第15章 喪失 ※
「はぁっ、はぁっ、はぁ…」
肩で大きく息をする。
全身の筋肉という筋肉が緩んでしまって手足に上手く力が入らない。
「それはイく、という感覚だ。とても可愛かったよ。」
エルヴィンは左手を愛おしそうに輪郭に沿わせ、酸素を必死に取り込んでいる唇に深い口付けを落とした。
腕で目元を隠しているせいでエマの表情をはっきり見ることができない。
エルヴィンはキスをしながら彼女の顔が見たくて、目元から腕を外した。
しかし露になった瞳は、エルヴィンの期待していたものとは全く違う表情をしていのだった。
「……泣いているのか…?」
「………っ…ご、ごめ…なさ………」
涙で潤んだ漆黒の瞳に、心臓がドクンと鳴った。
弱々しく謝るエマ。
溜まった涙が目尻から伝い、耳の方へ流れていくのが視界の隅に写っていた。
この涙は先の絶頂によるものではない。
何かを思い悔やむような、そして悲しむような、そんな類のものだと思った。
エルヴィンは極限まで高められていた昂奮がみるみるうちに萎んでいくのを、他人事のように感じていた。
「…何故謝るんだ?」
焦燥感にも似たような気持ちが押し寄せ、端的に問いかけてしまう。
心が激しくざわついた。
聞きたくない。
エマの口から自身を否定される言葉は…聞きたくない。
質問の答えがどうか予想通りにならないようにと願う気持ちと、きっとその願いは叶わないだろうと悟る気持ちが交差する。
ついにエマは溢れた涙を手の甲でゴシゴシと無理やり擦ると、静かに話し始めた。
「………団長のことが、嫌な訳ではないんです……それに、こうすることを望んだのは、私です……なのに…」
彼女の目からまた涙が一筋流れた。
エルヴィンはその涙を指で掬い、必死に言葉を紡ごうとするエマを黙って見守る。
「…気持ちが………やっぱり気持ちが追いつかなくて………
これじゃあ、団長の優しさに甘えてるだけじゃないかって思ったら、浅はかな行動を取った自分を、許せなくなってしまって……」