第15章 喪失 ※
「……っ…………」
「エマ、もっと舌を出して。」
静寂の中を、二人の息遣いと水音だけが支配する。
エルヴィンの部屋のベッドに横たわり、エルヴィンの下で頬を紅く染めながら時折小さな吐息を漏らすエマ。
目を閉じ、おずおずと差し出されるエマの舌をすくい上げねっとりと絡めれば、ぎこちないながらもちゃんと応えようとする。
エマは給湯室でもここへ来るまでも、素直に俺に黙ってついて来てくれた。
どうやらエマの覚悟は本気らしかった。
エルヴィンはゆっくりと丁寧にエマの口内をほぐしていった。
自身の愛情をその身体に染み込ませるように、ゆっくりと、ゆっくりと。
エマの気持ちが自分に向いていないことは分かっている。
彼女が酷く傷心していたのは見れば分かったし、理由は聞かなくとも何となく自分の直感通りだろうなと感じている。
だから、腕の中でエマが突然あんなことを言った理由も全く心当たりがないわけでもないのだ。
本来こうして自分が慰めるのは間違っているのかもしれない。
しかし頭では冷静にそう考えられるのに、心はその考えには従わなかった。
エマにとって例え気を紛らわすことにしかならなくても、一時でもいいからその苦しみから解放してあげることが出来ればと思ったのである。
そして何より、卑怯かもしれないがこれは好機だと思ってしまったのだ。
たぶん、自分も明日の壁外調査を前に普通の精神状態ではないのだろう。
兵団のトップなのに、その辺は普通の兵士たちと何ら変わりないのかと今更実感する。
でも、叶うことなら自分だって好きな女と肌を重ねて、生を実感したいと思ってしまったのだ。
そしてそれが、不当な成行きだったとしても今確かに実現しようとしている。
そんな自分を愚かに思いつつも、自身の昂ぶりを抑えることはもう放棄したのだ。
エルヴィンは少しずつ丁寧に、エマの身体を紐解いていった。