第15章 喪失 ※
この人はどこまで優しいのだろう…
泣いている理由も聞かず、ただ黙って私の感情に寄り添うように抱きしめてくれている。
エマはエルヴィンの腕の中で、堰を切ったように涙を流し続けた。
「……っく、団長は…」
「ん?」
しばらくして、しゃくり上げながら言葉を紡ぎ始めたエマへ耳を寄せた。
俯いたままで表情は見えないし、何を言おうとしているのかは俺にも検討がつかない。
「っく……前にっ、私をひつようだっ…て、言ってくれましたっ……」
「あぁ、そうだ。私にはエマが必要だ。」
「……なら……っ……教えてください……」
「……?」
「……私の、存在価値を……私に教えてください………」
胸に顔を埋めたまま話していたエマが、俺の目を見据えている。
その目から涙はもう流れていない。
「……それは、この前伝えた言葉では足りないということか?」
エマの言葉とすがるような目を見れば、俺に何を求めているのか検討はついていた。
しかしエマの口からはっきり聞きたかったのだ。
自分が確かにエマに求められているという実感が欲しい。
いや、もしかしたら彼女の口から聞くことで、これからするであろう行為を独りよがりなものではないと思いたかったのかもしれない。
「……はい。」
エマは小さな声だが、はっきりと肯定した。
身体の奥から血の気が湧いてくるのを感じる。
「それは……本当に君自身が望むことか?」
「…はい 」
エマへ最終確認の意味を込め問うと、彼女は芯の通った瞳を真っ直ぐこちらへ向けて頷いた。
その時、今まで自身の中で張り詰めていた糸が、プツンと音を立てて切れたのが分かった。
エルヴィンは腕の力を緩めると、エマの輪郭をそっとなぞっていき顎に到達すると引き寄せて口付けた。
反射的に目を閉じたエマの目尻からは残っていた雫が流れ落ち、白い頬に一筋の線を描く。
エルヴィンは謙虚な唇に何度か啄むようなキスを落とすと、角度を変えながら、エマの唇を自身の唇で包み込むようにして貪る。
静まり返った室内に、艶かしい接吻の音だけが響き渡っていった。