第15章 喪失 ※
「エマ。君のいた世界は雪は降るのか?」
「?…はい、降ります。」
なんの脈絡もなく問いかけられた質問に、疑問符を浮かべながら答える。
「そうか。実は今度、また君を連れていきたいところを思いついたんだがな。雪景色はよく見ているのならまた別の所を探してみるかな。」
「え?あ…でも、私の住んでいるところは降っても滅多に積もらないです。雪景色も、小さい頃親に山に連れて行ってもらった時に見た記憶しか…」
「そうなのか。なら連れていく価値はありそうだな。壁外調査から帰ったらまた一緒に来てくれるか?もう少し春めいてくるととても素晴らしい景色が見えるんだよ。」
「そうなんですか…それはぜひ見てみたいです。私で良ければ、ぜひお供させてください。」
この前連れて行ってもらった菜の花畑もすごく綺麗だったから、エルヴィンが知っている場所はどこも素晴らしいに違いないと思った。
このタイミングでの提案には少々驚いたが、どんな景色が見られるのかと単純に興味をそそられたのも事実だ。
「決まりだな。今回の調査で生きてここへ帰ってくる目的が出来たよ。ありがとう、エマ。」
エルヴィンは目を細めて柔らかく微笑む。
それにつられてエマも笑おうとしたのだが、その寸前で脳内に再びシェリルの言葉が再生された。
一役立たず一
その瞬間、尖ったナイフで心臓をぐるりと抉られたような痛みが走り、咄嗟に胸をぎゅっと掴み俯いてしまった。
「エマ?」
心配そうなエルヴィンの声が聞こえる。
酷く歪んでいるであろう顔をエルヴィンに見せることなんてできない。
これ以上…心配をかけたくない。
エマは俯きながら、外へ出ようとする涙を必死に押し込み、なんとか平常心を取り戻そうとした。
その時だった。
「無理するな。泣きたければ泣けばいい。」
優しく力強い低音と、広くて分厚い胸に全身が包み込まれる。
その声が、その胸が、その腕が、エルヴィンの身体も体温もすべてが優しくて、辛い心を解放してしまいなさいと言ってくれているようだった。
分厚い胸に収まったエマの瞳からは、気が付くと透明な雫がぽろぽろとこぼれ落ちていた。