第15章 喪失 ※
自分の名を呼んだ声でエマだと気付いたエルヴィンは、ランプで足元を照らしながら近づいた。
「こんな時間にどうした?風邪を引いてしまうぞ。」
「ちょっと、夜風に当たりたくなったので…」
ランプを掲げれば、充血した目でこちらを見上げるエマの顔が浮かび上がった。
「…そうか。もう夜もだいぶ更けてきているから、そろそろ中へ入りなさい。」
「……はい。」
促すと素直に返事をし後ろをついてくるエマ。
覇気のない声だった。
ザッザッと乾いた土を靴が蹴る音だけが、二人の間に響く。
「少しは暖まったか?」
「はい、ありがとうございます。すみません、明日は壁外調査だっていうのに…」
熱々の紅茶に息を吹きかけ冷ましながら少しずつ飲んだ。
近くに給湯室があったので、とりあえず暖まって落ち着くようにと団長が紅茶を淹れてくれたのだ。
給湯室に備え付け丸椅子に座り、ゴクリと喉を鳴らす。
紅茶が食道を通り胃に入ると全身の血液に温度を与え、それからじんわりとエマの体全体にぬくもりを与えていった。
少しだけ気分がほっとする。
「大丈夫だ。もう少し起きているつもりだったし、今日はもう仕事も片付いている。」
「でも、貴重なお時間を私に使わせてしまってると思うと」
「私のことは気にしないでいい。」
優しい口調で制すように言うと、団長も紅茶を啜っていた。
団長のことだから恐らく自分の様子がいつもと違うことにはとっくに気づいているだろう。
けれどさっきからその事については何も触れてこず、黙って優しい瞳でこちらを見つめるばかりだ。
彼なりの優しさなのかと思う反面、気を遣わせて申し訳ない気持ちにもなる。
「…………」
「…………」
どうしよう。何か話さなきゃいけないのに何を話していいか分からない。
エマは考えを巡らせるが、さっきの出来事からまだ頭を切り替えることができず、なかなか気の利いた話題を振ることが出来なかった。
すると、黙って見守っていたエルヴィンの方が口を開いた。