第15章 喪失 ※
「ひっ、ひっ、ひっく……」
膝を抱え打ちひしがれていると、誰かのしゃくり上げる声が聞こえてきた。
俯いていた顔を上げ周りを見回すと、向かいの建物から出てきた一人の人影を捉えた。
その人も私に気付いたのか、一瞬足を止めたあとまっすぐこちらへ向かってくる。
もう泣いてはいないようだった。
「……やっぱりあなただったのね。」
「あ……」
目の前に来たのは、私と同じように泣き腫らした目をした金髪の女性だった。
この人はさっき兵長と………
またあの光景がフラッシュバックしその場から逃げ出したくなる衝動に駆られるが、何故か立ち上がることは出来ず女性を見上げた。
「…あなた、兵長とデキてるの?」
「え?」
突然の突拍子のない質問に間抜けな声で聞き返してしまう。
でもその言い方から、彼女が自分のことを欲よく思っていないということだけは分かった。
「とぼけないでよ。外面は生真面目に兵長の秘書やってます感出しといて、裏で色目使ってたんでしょ?!兵長があんたみたいなガキに惚れるはずないのに、なんであんたなの!!」
女の人は急に声を荒らげて私を睨みつけた。
「…ちょっと、仰る意味が分かりません…私は兵長の秘書でそれ以上の関係などありませんし、あなたこそ兵長とはどういう関係なのですか……?」
この人はさっきまで兵長とキスをしていたんだ。なのに私を見つけた途端、血相を変えて怒っている。
何で自分が怒鳴られているのか分からない。
質問を返すと、女性は一瞬目を丸くした後少しなにか考え、今度はニヤリと口端を上げた。
「……私ね、兵長と付き合ってるの。あなたが来るずーっと前から。
すごく上手くいってたのに、最近兵長がおかしくなったの。ずっと私だけを見てくれてたのに、今はそう感じない……そう、あんたが来てからなのよ!」
彼女は私に向かって吐き捨てるように叫ぶと、座り込む私の胸ぐらを掴んで無理やり立たせた。
そして私の顔を睨みつけたまま高圧的に続けた。
「…あんた、どうせ単純な事務仕事しか取り柄のない役立たずでしょ?なのに立派な秘書面して兵長の隣歩いて、ムカつくの!
人類最強の兵長の隣にあんたみたいな凡人がいること自体おかしいのよ!さっさと辞めちゃえばいいのに!!」