第15章 喪失 ※
執務室へ向かう足取りは軽かった。
あの明かりの先に兵長がいる、と思うと足が勝手に右左と動いてしまう。
ドキドキと高鳴る心臓のことなどもはや気にならないくらい、頭の中は兵長のことでいっぱいになっていた。
階段を上るとすぐに幹部の執務室が並ぶ廊下だ。
その薄暗い廊下の奥で光の盛れている場所がひとつ。
毎日何度も往復しているから、だいたいどれくらい歩けば兵長の部屋かなんて感覚で分かってしまう。
鼓動はさらに速まりながらも、足は少し慎重になってゆっくりと動かした。
中にいる兵長の姿を思い浮かべるだけで顔が綻んでしまいそうだ。
部屋に来たことをなんて説明しよう?
正直に話すのはちょっと恥ずかしいから、たまたま通りかかったとでも言おうかな。
いや、でも兵長は鋭いしそんな嘘すぐにバレちゃいそうだから、やっぱり素直に話そうかな……
そんなことを考えながら目的の場所に近づくと、何やらガタンと物音がした。
?
兵長の部屋から…?
その物音に少し警戒して、足音を立てないように扉へ近づく。
僅かに開いている扉の隙間からは部屋の明かりが煌々と漏れている。
私はとりあえず中の様子を覗いてみようとその僅かな隙間から室内へと目を向けた。
「一ッ!!」
飛び込んできた光景に、体の全ての筋肉が硬直する。
心臓を動かす筋肉までも固まってしまったような錯覚に陥り、呼吸の仕方さえ分からなくなった。
目線の先には、私に背を向けて机に両手をつく兵長と、兵長と机の間に挟まれるような形で扉の方に顔を向けている金髪の女の人。
その人は兵長にキスをしていたのだ
たぶん時間にしたら僅かの事だと思うが、私の目には二人の動きがスローモーションのように映り、まるでその行為をじっとりと見せつけられているかのように感じた。
キスをしたままの女の人の視線が私とぶつる。
頭はすでに真っ白で体は鋼のように強ばっていたが、その中で目の奥だけがじんわりと熱くなり、瞬く間にそこから水分が溢れ出そうになる。
私は目にした現実を拒否するように、駆け足でその場を立ち去った。