第15章 喪失 ※
リヴァイがもう一度尋ねると、女はモジモジしているだけでなかなか口を開こうとしない。
「用がないなら俺は行くぞ。お前も明日のために早く寝ろ。」
こんな所で油を売ってる暇はない。こっちは早くエマに会いたいのだ。
リヴァイははっきりしない女の態度に若干イライラしながら言うと、女の横を通りすぎ廊下へ出ようとした。
が、その腕をいきなり掴まれた。
「……なんだ。」
「兵長。こんなこと言うのは失礼だと分かっています。だけど、どうしても最後の壁外調査前に……」
女はの顔を見れば今にも泣き出しそうに顔を歪めていて、リヴァイの腕を掴む手もプルプルと震えていた。
「リヴァイ兵長、私を抱いて下さいませんか……」
……なんとなく予想はしていたが、やっぱりか。
心の中で盛大な舌打ちをしてしまった。
「…悪い。そんな気にはなれねぇ。」
リヴァイは女に目線を合わすことなく答える。
以前からこういうことはたまにあった。
壁外調査を任務の主とするこの兵団では、必然的にいつも“死”が身近について回る。
調査が実施されれば、誰も死なずに帰れることはそうそうない。
しかし連中はそんなことは百も承知でここに身を置いている。
たとえ死ぬことになってもそれが自分の使命なのだと思い、人類に心臓を捧げると誓った以上前に進むしかないのだと己を奮い立たせ続けるのだ。
けれど兵士だって人間。
いつもそう思える時ばかりではない。
特に壁外調査前は自分がこの先も生きられるのかどうか、その無慈悲な現実を強く実感する。
そしてそういう時にこそ、強く“生”に執着したくなるのが人間だ。
生への執着の仕方は人によって色々あるが、この女のように好きな奴と肌を合わせることでそれを実感する者も少なくない…
リヴァイは以前なら、こうして言い寄って来た女は仕方なく抱いてやりその心を満たしていたのだが、今回は何故かそういう気にはなれなかった。
自分には一人の想い人がいる…
こうして他の女といても自然とその顔が浮かび、例え身体だけであっても到底彼女以外には許すことなど出来なくなっていたのである。