第15章 喪失 ※
その日から、リヴァイは中庭に姿を現わさなくなった。
何でもオルオの代わりに班に入った兵士の訓練に夜も付き合っているらしい。
彼の腕は確かなのだが巨人の捕獲は初めてらしく、調査直前の入班というのもあって、ギリギリまで調整をしたいらしかった。
「…いよいよ明日になっちゃったな。」
エマは中庭のベンチに座り、キラキラと輝く満点の星空をぼんやりと眺めながら、隣にいつもの姿がないのを寂しく思っていた。
ついに明日、壁外調査だ。
きっと今日は皆、早めに訓練を終えて明日に備えて体を休めるだろう。
だから、今夜はもしかしたらリヴァイも早めに切り上げて少しくらい現れるかもしれないと淡い期待を抱いて来たのだが、どうやらエマの期待通りにはならなさそうだった。
もしかしたら部屋でゆっくり体を休ませているのかもしれない…
ひゅっと頬を掠める風が冷たい。
季節は冬から春へと着実に近づいているはずなのに、肌にあたる今宵の空気は真冬のような冷たさを感じさせていた。
寒い。
………帰ろうかな。
ここに来てかれこれ30分。
もうこれ以上待ってもリヴァイは現れないだろうと諦め、重い腰を上げた。
廊下へ戻ろうと歩きだし顔を上げると、廊下のすぐ上の2階から小さく光が漏れているのが目に入った。
中庭に出られるようになっているこの廊下の上階には、幹部の執務室が並んでいる。
もちろん兵士長であるリヴァイの執務室もそこにある。
エマは暗闇の中で目を凝らし、光の漏れている部屋を確認した。
……あそこは兵長の執務室だ。
思わず胸が高鳴ってしまった。
兵長が執務室にいる。こんな時間まで仕事だろうか?
もしそうなら、私も今から行って手伝いたい。
いや、正確には仕事でも何でもいいから、兵長に一目会いたいと思ってしまっている。
昼間も会ったはずなのに欲張りかな。
でも、壁外へ行ってしまう前にもう一度だけ。
少しの時間でいいから…
気が付くとエマの足は自室とは反対方向へと歩き出していた。