第2章 始動
ハンジの話はとても興味深かった。
この世界には巨人が存在すること。
その巨人は人を喰らい、圧倒的な力を持っていること。
今から100年前、その恐怖から生き延びた人々はこの場所に三重の壁を築き、そこで100年間巨人の襲撃なく暮らしていること。
しかし…
「しかし、私達は再び巨人の脅威に晒されることになってしまった。」
「それは、つまり…」
「そう、壁が破壊されたんだ。」
「!!!」
今から4年前、突如現れた60m級の超大型巨人と鎧の巨人によって、一番外側の壁の領地、ウォール・マリアが陥落しまったこと。
「私達調査兵団はもともと壁の外にいる巨人の生体や動向を調査するべく活動していたんだけど…
今は失われた領土を取り戻すべく、ウォール・マリア奪還を目指しているんだ。」
調査兵団はその特殊な任務ゆえ、この壁の中にある3兵団のうち最も巨人と対峙する頻度が多く、必然的に戦死率も高いそうだ。
壁外調査と呼ばれる壁の外での任務では、毎回当たり前のように殉職していく兵士たちがいるとハンジは話す。
「しかし私達は、籠の中の鳥となった人類の自由を取り戻すべく、それでも希望を捨てずに、巨人の脅威に立ち向かい続けている、いや立ち向かい続けなければいけないんだよ。」
志半ばで死んでいった兵士たちの意志を継いで前へ進み続けることが、人類に残された唯一の、巨人に抗う術なのだと…
ハンジの話は自分が生きてきた世界では到底考えられない話ばかりで、かなりの衝撃を受けた。
ここで暮らす人達は、人類に心臓を捧げた勇敢なる兵士。
壁の外に出れば常に死と隣り合わせという恐怖があって、仲間を次々失っていく中それでも人類の希望のために進み続けなくてはいけない…
エマは思った。
自分が生きてきた世界は、きっとすごく恵まれていたんだ。
と。
ハンジ達の厳しい事情を知ると、自分のこれまでの怠惰な生き方を反省したい気持ちになった。
絶望的とも言えるこの状況の中、それでもハンジの目は死んでなんかいなくて、むしろ生のエネルギーに溢れている。
私も、何か彼らの役に立つことはできないだろうか…
ハンジの話を聞きながら、いつしかエマはそう思うようになっていった。