第15章 喪失 ※
「兵長、お疲れ様です。」
「お前もな。」
「今日は曇っていて星見えませんね。」
「そうだな…だが曇っている方が気温はあんまり下がらないから、寒さの点では今日はマシだな。」
「確かに!今日はそんなに手が冷たくないです。」
ここ数日、二人は夜になるとこうして中庭で話をするようになっていたのだ。
最初はエマが風呂上がりに廊下を通りかかった時、あの晩と同じようにベンチに腰掛けるリヴァイの姿を見つけて思わず声を掛けたのが始まりだった。
その日から、お互いここで姿を見つければどちらともなく声を掛け、こうして一緒に時間を過ごすようになったのだ。
話の内容はたわいもないものが大半。
リヴァイがこの世界の話をしたり、逆にエマがいた世界の話をしたり、兵団の人の話であったり、時には色々と質問し合ってみたり。
冬の峠は超えているが、まだ夜は寒いからそう長くは居られない。
しかし束の間のゆったりとしたこの時間は、エマにとって一日の中で一番楽しみな時間となっていたのだ。
「…もうすぐ壁外調査ですね。」
気がつけば四日後には出立だった。
「そうだな。」
「…作戦は上手く行きそうですか?」
エマは少し不安そうな面持ちで尋ねる。
壁の外へ一歩出ればそこは巨人の巣窟だと聞いている。
壁の外では自分の命も仲間の命も、一切の保証はない。
そんな場所に自ら立ち向かうリヴァイ達は、生半可な覚悟ではないことくらいはエマにも分かる。
そしてこれまでも幾度となくそんな命懸けの戦いから生きながらえているのは、それ相応の実力があるからこそなんだろう。
だが、エマにとっては初めての壁外調査。
その日が迫るにつれ不安は大きくなり、リヴァイ達の身を案じずにはいられなかったのである。
「今回は久しぶりの壁外調査ってのもあって、日帰りで距離も短いしそんなに難しい作戦でもねぇからな。」
「そうですか…でも、その、壁外では何が起こるか分からないからってハンジさんが言ってました。」
「その通りだ。俺達はいつだって情報不足の中巨人とやり合わなきゃいけないからな。」
「そうですか…」
過酷だ。
いや、きっと現実は私が想像している何倍も過酷なんだと思う。