第15章 喪失 ※
廊下の突き当たりまでホウキで掃き、ゴミを集めて捨てに行ったあと、エマは団長室へと早足で向かった。
「お待たせしました、掃除終わりました!」
「お疲れ様。」
部屋には紅茶のいい香りが広がっている。
テーブルに目をやると二人分のティーカップとポットが置かれていた。
エルヴィンは自分の隣に座るようエマを促すと、カップへ淹れたての紅茶を注いだ。
……距離が近い。
やっぱり緊張してしまう。
「あの、気を遣わせてしまってすみません。」
「遠慮しなくていい、私もちょうど喉が渇いた頃だったしね。」
エマはエルヴィンにお礼をいいながらカップに手をかけると、隣の見慣れない茶菓子に目が止まった。
「それはこの間王都で貰ってきたものだ。遠慮せず食べてくれ。甘いものは好きか?」
「はい…好きです。ありがとうございます!」
お菓子…というものはこっちに来てから初めて見た。
甘い物を食べられるのはやはり嬉しくて、エマは素直に喜んだ。
「…美味しい。これ、すっごく美味しいです!」
ちょうどいい甘さの生地と中に入っている胡桃の香ばしさが絶妙にマッチしたクッキー。
エマがキラキラした目でクッキーを頬張る姿を見れば、エルヴィンも自然と頬が緩んでしまう。
「口にあったようで良かったよ。少しは元気も出たかい?」
「はい!朝から元気出ました!……って私元気なさそうな顔してましたか?」
「あぁ、そう見えたよ。また何かに悩んでいるのか?」
昨日は楽しんでくれていた様だったのに、今朝見れば浮かない顔をしていた。
原因はなんなのか気になってっしまうのは当然だ。
そう思って聞いたのだが、エマにとってその質問はとても答えにくいものだった。
「いえ、特に何も悩んでいませんよ!」
エマは心情を悟られないよう出来るだけ平然を装った。
するとエルヴィンは一瞬真剣な瞳でこちらを見たが、すぐに穏やかな表情に戻ると
「そうか、なら私の勘違いだったかな。」
とそれ以上詮索することはしなかった。
その言葉にほっとしたのだが、エルヴィンが続けて発した言葉にまたもドキリとさせられてしまうのだった。