第14章 心を癒すのは
「お前を傷つけるような真似はもうしない。」
「……え………」
思いがけない言葉に、喉の奥の方から小さな声が漏れた。
「え……ええと………それは………」
「俺も…たまには自分の気持ちに正直になってみることにした。」
……どういうこと…
傷付けるようなことしないって……
自分の気持ちに正直になるって……?
エマは一瞬、リヴァイにまた期待を寄せそうになったのだが、既のところでその思考を反転させた。
あぁ、今度こそ遠回しじゃなく本格的に振られるってことか…
エマはもう完全にネガティブになってしまっていた。
「分からねぇか?」
こっちを見つめたまま黙りこくるエマへ首を傾げるリヴァイ。
ついに…言われてしまう。
でも、もういっその事はっきり言われたほうがこっちも潔く諦められるかもしれない。
もう…なんとでも言ってください…
エマはこれから言われるであろう言葉を想像し、覚悟してぎゅっと目を瞑った。
しかしその瞬間、
「一!!」
柔らかな唇がエマの唇を塞いだ。
冷えた空気に晒されて冷たくなったお互いの唇が重なり、その中心で微かに熱を帯びていく。
そして優しく押し付けるように数秒重なった後、ゆっくりと離れていった。
とても丁寧で優しいキスだった。
「…こういうことだ。」
「…………え、と…」
エマの心臓はこれでもかと言うくらいうるさく鳴り響いて、呼吸も浅くなりそうで、声を発することもままならない。
どういうこと……
なんで今、キスなの……?!
自分の思惑とは真逆のリヴァイの行動に、度肝を抜かれてしまったエマは、ついに思考回路をショートさせた。
リヴァイは固まるエマの髪を手でゆっくり梳かすと、突然ベンチから立ち上がる。
「風呂上がりだろ。そろそろ部屋に戻らねぇと風邪を引く。」
「……は、はい…」
エマは訳が分からないまま頭の中はぐちゃぐちゃだったが、踵を返して立ち去ろうとするリヴァイの背中を追いかけるように中庭を後にした。