第14章 心を癒すのは
その夜一
「今日は本当に楽しかったなぁ。」
エルヴィンと過ごした一日を思い返して余韻に浸りながら、エマは風呂から自室へと戻る途中であった。
中庭の前を通る長い廊下を歩いていた時、窓から見えた景色に思わず目が止まる。
「わぁ……」
そこから見えたのは真っ黒な空に煌めく星たちの姿。
エマはその光に吸い込まれるように中庭へと出た。
「夜空に咲いたお花畑みたい……」
こんなにたくさんの星、あっちでは見たことがない。
昼間に見たあの菜の花畑を思い浮かべながら、エマは天を仰いだ。
「おもしれぇこと言うじゃねぇか。」
「ひゃっ!」
突然暗闇から聞こえた声に肩を震わすエマ。
一声聞いただけで分かる。
この低くて落ち着いたトーンの声の持ち主は…
「リヴァイ兵長!」
「毎度毎度その色気のねぇリアクション、何とかならねぇのか?」
「だ、だって急に声がしたからびっくりして…」
さっき呟いた一言を聞かれていたと思うと恥ずかしくなる。
「星空観賞か?」
「はい!たまたま通りかかったら星が綺麗だったので少し見ようと思って。」
呟きを聞かれていたこともそうだが、久しぶりにリヴァイと仕事以外で二人きりになったことに対してもドキドキし出してしまった。
エマは何となく居ずらくなって、「では…」とその場を離れるつもりで踵を返そうとするが、
「エマ。」
背後で響くリヴァイの低音に足を止められてしまった。
「……なんでしょう?」
エマはくるりと上半身をリヴァイの方へ向ける。
名前を呼ばれただけなのに、バクバク心臓が煩い…
リヴァイはエマに向かって手招きをしていた。
一瞬躊躇ったが、ベンチに座るリヴァイの元へ素直に近づくと、彼が座る横をトントンと叩かれた。
え、隣に座れってこと…?
「……し、失礼します…」
リヴァイは遠慮がちに腰掛けるエマを黙って見届けたあと、空を見上げた。