第14章 心を癒すのは
「本当にこのままでいいの?」
「…あぁ。これが俺の選ぶ最善だ。」
「本当に?」
ぐいっと顔を寄せるハンジ。
「だからこれでいいって言って」
「エマがエルヴィンと付き合うことになっても?」
しつこいハンジを無理矢理制止しようとするが、途中で聞こえた“エルヴィン”という単語に唇の動きを止める。
するとハンジはリヴァイから離れ、落ち着いたトーンで話し出した。
「今、エルヴィンとエマは二人で出かけてる。」
「…………」
「世間一般で言うデートってやつだろうね。今朝エマに会った時聞いたから間違いない。珍しく着飾ってたしね。」
「………勝手に行けばいい。俺は関係ない。」
「このままだと本当に取られちゃうかもよ。」
「…………」
「リヴァイ。エマに想いを伝えない方法をとる気持ちも分かる。
でもこのまま何もしないで本当にいいの?想いをしまい込んだまま、エマが去る日が来ても後悔しない?」
「……お前の忠告はありがたく受け取っておく。だがどうするかは俺が決める。」
ハンジの説得にぶっきらぼうに答えると、ハンジから目線を外して机の上に置いてある資料に視線を落とした。
ハンジの方から大きなため息が聞こえてくる。
「…分かったよ。
でも最後に。これは私個人の思いなんだけど。」
ハンジがそう言うと、リヴァイは再び顔を上げた。
「私は、リヴァイには後悔しない選択をして欲しいかな。」
真剣な目でリヴァイを見つめてそこまで言うと、ハンジはいつもの調子になって“じゃっ”と手を上げ部屋を出ていった。
部屋に残されたリヴァイは、手元の資料を眺めた。
資料に書かれている文字が意味をなさないただの記号の羅列に見えしまい、何も頭に入ってこない。
ハンジの最後の言葉がグルグルと頭の中を巡る。
「後悔しない選択………か。」
シーンと静まり返った部屋の中に、呟いた独り言が吸い込まれていった。