第14章 心を癒すのは
10分ほど歩くと目的の場所に着いた。
そこは、さっきの花畑をちょうど上から見下ろせる小高い丘になっていた。
柔らかな日差しを受けてキラキラと眩しく咲き誇る黄色い花。
「君を連れて行きたかった場所だ。」
丘からの景色を眺めるエルヴィンに、エマからの反応は返ってこない。
エルヴィンは隣に佇むエマの方へ顔を向けると、彼女は目を大きく見開き左手を口元に当てている。
嬉しくて思わず口元が緩んだ。
「気に入ってくれたか?」
「……………はい、とても……」
エマは目の前の景色に吸い込まれるように花畑へと目線を真っ直ぐ向けたまま、感嘆の声を漏らしていた。
「すごく綺麗です。こんなにたくさんの菜の花、見たことありません。」
小高い丘から見下ろす花畑は、どこまで続いているのか分からないほどに遠く彼方まで広がっていた。
まだ少し冬の空気を纏った風がふわっと肌を撫でていく。
「…風が吹くと一斉にお花が揺れて、気持ちいいって喜んでるみたいですね。」
エルヴィンに満面の笑みを向けるエマは、菜の花と同じくらい眩しくて可愛いくて、その瞬間にエルヴィンは完全に心を奪われてしまった。
「…そうだな。喜んで貰えて私も嬉しい。連れてきて良かったよ。」
エルヴィンはエマにつられて柔らかく笑うと、自分の肩の高さくらいに位置するエマの髪を優しく撫で、その額にひとつキスを落とす。
エマは驚いていたが、少し俯いて照れ隠しをするように髪を手櫛で二、三度梳かしていた。
その仕草がどうしようもなく可愛くて、また少しだけ色っぽくもあり、エルヴィンは急速に湧き上がる情動を押さえきれなくなってしまう。
エルヴィンは髪に触れていたエマの手を優しく掴み指を絡めると、小さな唇にそっとキスをした。