第14章 心を癒すのは
可愛い。
このまま抱きしめたい。
会ってすぐにそんな顔を見せられてはダメだ。
この先自分の理性がちゃんと保てるのか自信が無くなってしまう…
エルヴィンはさっきから何度も失いかける理性を何とかつなぎ止めると、エマと馬に跨った。
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
馬を走らせること小一時間。
体を切る風はまだ冷たいが、ほんのり春のあたたかさを纏い始めた陽の光が、心地よく体に染み込む。
二人は陽の光がカーテンのように差し込む穏やかな森の中を進んでいた。
「そろそろ着くよ。」
前で手網を操るエルヴィンに声をかけられ、エマはキョロキョロさせていた視線を前へ向ける。
すると、急に視界が開けて快晴の日差しが目に入り込んだ。
エマは眩しさで反射的にギュッと瞑った目をゆっくり開いていくと、そこに現れた光景に一瞬にして目を奪われるのだった。
「…………え…」
目の前に広がっていたのは、一面の菜の花畑。
まるで地面に黄色い絨毯を敷き詰めたように、鮮やかな黄色で溢れていた。
「…ちょうど見頃だな。」
エルヴィンはエマを馬から下ろして適当な木に馬を繋ぐと、手を差し伸べた。
「ここからは歩いて行くぞ。足元があまり良くないから、しっかり握っていてくれ。」
「は、はい!」
エマが差し出された手を握ると、エルヴィンは強く握り返し、歩き始めた。
エルヴィンの手は大きくゴツゴツしていて、エマの華奢な手はその中にすっぽりと収まっていた。
安全のためなのだが、花畑の中でエルヴィンと手を繋ぐというシチュエーションにエマの心臓は無意識に鼓動を速めていく。
エマはエルヴィンに手を引かれながら、何とも形容しがたい不思議な気持ちで、舗装されていない畦道を歩いていった。