第14章 心を癒すのは
リヴァイが会議に行って二時間程経った頃、エマは予定よりも早く今日の分の仕事を終えていた。
夕食まではまだ少し時間がある。
他に何かやれることはないだろうか。
エマは丁寧に積み上げられた書類が置かれているリヴァイの机を見渡しながら、他にもできそうな仕事を探した。
ふと椅子の方に目をやると、いつもそこに座って片肘をつき、面倒くさそうに書類に目を通すリヴァイの姿が浮かび上がる。
エマはおもむろにその椅子に腰掛けてみた。
何となくだが、さっきまでここに座っていたリヴァイの温もりが残っているような気がして、無意識にちょっとだけ頬が緩まる。
ハンジに気持ちを打ち明けてから、つまりリヴァイへの思いを認めてから、その想いは膨らむ一方だ。
しかしあの時、もうこの恋は叶うことがないと悟ってもいる。
悟っているのに、彼の椅子に座っただけでこんなにも簡単に心が弾んでしまう。
現実と自分の気持ちがうまく噛み合わないまま、ただ時間だけが過ぎていたのだった。
エマは自分のしていることがなんだか滑稽に思えてきて、自嘲するように小さく鼻で笑ってしまった。
コンコン一
「はっはい!!」
その時、急に聞こえたノックの音に、エマは慌ててガタガタと立ち上がる。
ドアが開かれ、そこに立っていたのはエルヴィンだ。
「エルヴィン団長…」
ノックが聞こえた時点でリヴァイではないことは分かっていたが、この光景を見られたくない人物には変わりなかった。
かろうじで椅子からは立ち上がれていたが、エルヴィンから見たら、さっきまでエマがそこに座っていたことは一目瞭然だっただろう。
「そっちの方が仕事が捗るか?」
「あ、あっそうですちょっと兵長の分の書類を纏めていてこっちでやった方が効率が良かったので」
冗談ぽく投げかけたエルヴィンにだったが、慌てたエマはつい真面目に言い訳をしてしまった。
そんな彼女をエルヴィンは目を細めて見つめ、
「そうか。ならこれからはリヴァイにこっちに座ってもらおうか?」
とエマのデスクに目をやり小さく笑った。
その瞳に自分のついた小さな嘘を見抜かれていないかエマはハラハラしながら、エルヴィンに合わせるように笑ってみせた。