第14章 心を癒すのは
ハンジのことを話す時のモブリットの目は、いつも優しい色になる。
きっと心の底から敬愛し信頼すると同時に、すごく大切に思っているからだろう。
ハンジもハンジで、モブリットにいつも面倒事を押し付けてばかりのように見えるが、彼をのことを心から信頼していることは彼と話す時のハンジの顔を見れていればよく分かった。
この二人はただの上官と部下という関係だけではない、もっと心の深いところで繋がっているように思えていた。
その時、ふとエマは思う。
お互いがこれほどまでに信頼し合えるのは、きっとこれまでいくつもの困難や死線を潜り抜けてきたからだと。
リヴァイと自分はまだ僅かな時間しか過ごしていなければ、もちろん共に戦場で戦ったこともない。
そもそも元々、ここで身の内を明かさず過ごすための口実として秘書になったわけだし、モブリット達とその関係性を比べること自体間違っていると思うのだが、エマは計らずも二人を少し羨ましく思ってしまったのだ。
エマはそんな思いをかき消すように小さくかぶりを振ると、モブリットに視線を向ける。
「モブリットさんは、ハンジさんにすごく大事にされてると思います。」
「え?そうかな?」
「見てたら分かりますよ。ハンジさんにとってモブリットさんは居なくてはダメな存在なんです。」
「そうか……でも、分隊長がそう思ってくれているなら、それは俺にとっても本望かな。」
モブリットは少し照れくさそうに人差し指で頬を掻いていた。
その瞬間、
「はぁーっ!久しぶりのお風呂、気持ちよかったー!」
躊躇うことなく開かれたドアから、髪を濡らしたままのハンジが入場してくる。
モブリットは慌てて椅子から立ち上がると、
「分隊長!風邪引くからちゃんと髪乾かしてください!」
と素早くタオルを差し出した。
そんなモブリットの様子を見てエマは自然と笑みが零れてしまった。
この二人にはこれからもこうして一緒にいて欲しいな。
……巨人なんかに負けないで欲しい。
彼女は強くそう思いながら、太く頑丈な網を丁寧に筒の中へと詰めていった。