第13章 板挟みの中で
身体が離れ視界が開けると、エマは小さな声で名前を呼んだ。
「兵長……」
リヴァイはエマに背を向けたまま顔だけ少し振り返った。
「い、いえ…なんでもありません。」
振り向いた顔を見るなり、何か言いかけた言葉を喉の奥にしまいこんで俯く。
「………」
二人の間に少しの沈黙が訪れる。
「…前にも聞いた気がするが、俺にこういうことをされるのは、嫌か?」
「!!」
自分の方へ体を向け、沈黙を破ったリヴァイだったが、また突拍子のないことを言われ動揺してしまう。
だが、エマはリヴァイの顔色を伺いながらおずおずと口を開くのだった。
「…私からもひとつ聞いてもいいですか……?」
「いいが、先に俺の質問に答えてからだ。」
予想外の質問返しにリヴァイは一瞬だけ目見開くが、もう一度エマを見据えてはっきりと言う。
どうやらリヴァイの質問をはぐらかすことはできないようだ…
「……嫌とは感じませんでした。」
一旦は冷めていた頬に再び熱が集まるのを感じながら、エマは正直に答える。
「そうか。…で、お前の聞きたいことはなんだ?」
エマの正直な告白にも大して表情を変えないままのリヴァイ。
そのまま質問を促されたエマは、心臓を突かれたように急に心拍が速まるのを感じながら、決死の思いで口を開くのだった。
「兵長は…私の事、どう思ってるんですか…?」
エマの質問もまた、リヴァイにとって思いもがけないものであった。
リヴァイは目を丸くし、口を閉ざしたまま何も言おうとしない。
「こんなこと言うこと自体おこがましいのかもしれませんけど…こういうことする前に、ちゃんと兵長の気持ちが知りたくて。」
それまでリヴァイに対しては恐る恐る言自分の気持ちを吐露するばかりだったエマが、はっきりと自分の思いを伝えている。
純朴な目はこちらが眩しいと感じるくらい真っ直ぐリヴァイを見つめていた。
「俺がもし……」
また少しの沈黙のあと、エマの視線に自分の視線をゆっくり重ねたリヴァイは、ポツリと話し出した。
エマは黙って聞いていた。
「もし……お前を好きだと言ったらどうする?」